罪悪感 

明月 空

第1話

 中学1年生の春、昼休みスマホで予定表を見る。今日の予定から来週の予定まで何も入っていない。

 それを眺め俺は人づきあいができていないことにため息をつく。

 クラスが始まってから1か月間のうちに友達が出来なかった俺は、これからこんな日々が毎日続くとなると嫌になる。

 「ハルキ、遊びに行こうぜ」

 このクラスになってから1回か2回しか義務的にしか話したことしかないユキトが声をかけてきた。

 スマホのツイッターを何も考えずにスライドをしていた俺は唐突に名前を呼びかけられたことに驚いてスマホを地面に落としてしまった。

 それを拾い上げてくれたユキトは、笑顔でもう一度言った。

 「今日放課後近くの駄菓子屋に遊びに行こうぜ、ケイゴとシンイチも来るけど」

 馴れ馴れしいなと思った。しかし、友達をつくるチャンスだと思った俺は、警戒しながら「うん、今日は行けそう」笑顔でそう答えると、「駄菓子屋集合な」とユキトは言って,ケイゴとシンイチの方へ言ってしまった。

 もっと話したかった俺はユキトの背中を名残惜しそうに眺めた。

 俺はユキトと友達になるチャンスだと思いうれしくなった。教室の窓を眺める。窓から見た景色が、いつもより明るく感じた。


 放課後バッグを家に置いて、制服から私服かジャージどっちに着替えるか考え、結果としてジャージに着替え財布とスマホを持って、スキップしながら駄菓子屋に向かった。

 駄菓子屋の前で、ジャージを着ているユキトとケイゴとシンイチに会った。

 私服ではなくジャージを着てきたことに安堵し、同じ考えということにうれしさを覚えた。

 4人で駄菓子屋に入った。この行動が友達になるはずだったはじめの一歩でもあり一番後悔している一歩でもあった。

 中は意外と広く、入口の左にはおじいさんが座っており、右に駄菓子コーナーが広がっていた。

 中学生になってからたった4か月行っていないだけなのに懐かしさを覚えた。駄菓子屋の何とも言えない風が体を覆う。それにより、妙に落ち着く。

 右の駄菓子屋コーナーは、真ん中に大きい商品棚がありそれを囲い込むように壁に駄菓子が並んでいた。

 背の高さまで駄菓子が並んでいることに驚いた。駄菓子好きな俺にとっては天国のような場所だ。

 ケイゴとシンイチは左のおじいさんと話し始めた。

 ユキトは右の駄菓子コーナーに向かい、大きな棚の後ろに駄菓子を探しに行った。

 俺は、話すのは後にして駄菓子を選ぶためユキトについていくようにして、右の駄菓子コーナーに行った。 

 ユキトとケイゴとシンイチが見える位置で棚にある駄菓子のどれを買おうか悩んでいた。

 この棚にはあまりいいお菓子がなく、次にどこに行こうかまわりを見渡す。

 すると、ユキトが上着のポケットにお菓子を入れるところが見えた。

 俺は咄嗟に目を離した。まずいものを見たのではないかと思い、首に汗が滴る。

 だが、やはり気になってもう一度ユキトの方を見る。平然としているユキトがいた。気のせいだと思いこもうとしたとき、ポケットが膨らんでいることに気づいたことにより、気のせいじゃないことをたたきつけられた。焦りながら、次の行動を考えた。このまま何も見なかったことにして店から出るのか、それともユキトを説得してお菓子を棚に戻すように言うのか悩んでいるとユキトがこちらに向かって歩き出した。俺の後ろを通り過ぎ出口の方へ行く。そのとき、冷たい風が僕の背中に触れた。

俺の早とちりで、ただ会計に行く前にポケットに入れているだけの可能性もあった。しかし、望んでいたことは起こらずユキトはそのまま外に出てしまった。

 そのまま、ユキトに続いてケイゴとシンイチも出て行った。 

 ぽつんと駄菓子屋に残された俺はまわりが静かなことに気づくその空気に耐えられなくなった俺は、棚にあったガムを急いで取って会計に持っていった。おじいさんとは気まずく目を合わせられないまま財布を取り出し30円を払って店を出た。

 外に出ると3人が待っていた。3人は何やら話をしていたが、近づくとその話をぴたりと止め、俺のほうを向く。

 俺は盗み出したことを問いただそうと思った。しかし、今戻したところでおじいさんは許してくれるのだろうか、その前に俺の話をまともに聞いてくれるのだろうか、今言ったら俺も共犯にさせられるのではないかといろいろな考えが頭の中をめぐる。

そのまま俺は何も言えずに無駄な時間が続く。

  「今から俺の家に行こうぜ」と唐突にユキトが言う。さっきの件もあったので断ろうと思っていたが、ケイゴとシンイチは行くことになったのでまわりの空気にながされて断ることができず、行くことになった。俺はこの時点で言う機会を完全に失っていた。

 

 ユキトの家に着いた。2階建ての一軒家で、2階には小窓があり真っ白い壁と四角い茶色いドアがあった。ユキトが鍵で最初にドアを開け、ただいまと言った。その次にケイゴとシンイチも入った。俺は、ためらいながらも家の中に入った。

 家の中は廊下があって突き当りに階段があった。左にリビングがあり、全員でリビングに入った。リビングは目の前に大きなソファがあってその前に小さなテーブルがあってその前にテレビがあった。

 大きなソファに4人で座った。俺は、お母さんとお父さんがいないのか気になったが触れないことにした。ユキトは上着のポケットからお菓子を取り出した。それを小さなテーブルの上に置いた。ユキトはそのお菓子をためらうことなく取って食べた。それに続きケイゴとシンイチもテーブルのお菓子を食べた。俺は、まわりに合わせるかそれとも食べないか悩んだ。目の前のお菓子を食べてしまったら、俺も共犯になってしまうのかそれとも免れるのかそのことばかりが頭の中で巡りながら、俺はパニックになっていた。そう悩んでいるうちに目の前のお菓子が消えていく。罪悪感の塊が目の前から消えていく。そのとき、シンイチからゲームのリモコンが渡された。

 「お前の番」そうシンイチが言った。リモコンをもらってゲームをやっているときは、ゲームに集中していたのでお菓子のことは忘れるように頭の隅に追いやっていた。


 約1時間たったころ、解散することになった。小さなテーブルを見たとき罪悪感の塊は消えていた。結局俺は一個もお菓子を食べずに帰ることになった。

 自分の家に帰るころには、外が真っ暗になっていた。家に帰り家族に帰って来たことを告げ、二階に上がる。ズボンのポケットに手を入れると買った30円のガムが入っていた。ガムを見ると嫌な思い出が蘇る。そのガムを素早く食べごみ箱に捨てた。そして、ベッドに横になって目をつぶった。目をつぶっても、駄菓子をジャージのポケットに入れた風景が瞼の裏にこびりついて離れない。あの時どうすればよかったのだろうかずっと考える。今あの時に戻っても何も言えなかっただろうと思ったので、もう思い出さないようにすることにした。

 

 朝、学校に着き自分の席に座る。出欠確認が始まる。ユキトだけ欠席だった。昨日のことだろうかと考える。ケイゴとシンイチに聞こうと思ったが昼休みまでタイミングが合わず聞けずじまいだった。

昼休み、先生に呼び出された。ものすごく嫌な予感がしていた。そして、案の定呼び出されたのは駄菓子屋の件だった。ユキトが自分でやったことを白状したらしい。

俺も共犯ではないのかと聞かれた。ユキトは自分だけでやったと言っているけれど、

先生たちは俺たちも疑っているみたいだった。俺は共犯なのだろうかと考えた。やったことといえば見たところを止めなかっただけだ。お菓子は食っていない。ならば共犯ではないと自分を自己暗示した。そうして先生には関わっていませんと言った。見たことも言わなかった。わかったと先生は言い、素直に帰らせてくれた。

 放課後ずっと考えていた。放課後にあの2人が呼び出されていく。あの2人は共犯なのだろうかそう考えながら窓を見る。

 今日の空は真っ黒い雲が見えるかぎり一面に広がっている。もうすぐ雨が降りそうだった。

 

 次の日の放課後先生に呼び出される。俺は見ていたことがばれたかと少し警戒したが、先生から出された話は違っていた。先生からされた話はケイゴとシンイチが共犯だったことだった。俺はお菓子を食べたから共犯になったのだろうと思っていたが、

それは、違っていてあのお菓子を盗み出したことは駄菓子屋に入る前から決まっていたことだった。

 計画では、ケイゴとシンイチがおじいさんと話すことで気を紛らわせ、その間に俺とユキトがお菓子を盗む計画だったらしい。しかし、ユキトが俺に計画を話すことを罪悪感でわざと言わなかったらしい。俺は共犯にされなくてよかったという安心感とあの時止めればよかったという罪悪感で涙を流した。俺が泣くべきではないというのは痛いほど分かっていた。でも、涙が止まらなかった。先生は背中をなでてくれた。

地面の木製の床が涙で黒くなる。袖で涙を拭き家に帰った。


 次の日の朝、あの3人はいくら待っても来なかった。3人がいない教室は何か大事な欠片がなくなっている気がした。

 スマホを見る。今日は外を見る気分ではなかった。

 


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