この学校の野外活動は異世界らしい

大根丸

まさかまさかの!

「今年の野外活動の行き先が決まりました…」 と先生が言う。 ゴクリ、と息を飲む音がする。 「今年の野外活動の行き先は、国家エリアスです!」 「国家エリアス。」と私は心の中で反復した。 国家エリアスか、パンフレットで見た異世界だ。自然豊かで、冒険者達が沢山いる国。そしてなりより、王女様が可愛い。ハズレかアタリかで言うとアタリの方だ。 この学校では2年生の野外活動は異世界に行くことが伝統だ。去年の行き先はマホラジアムだったらしい。 周りが色々盛り上がっている中、私は一人で考えていた。 異世界。パンフレットでは見た事がある。2025年。我々が住んでいる地球とは別の平行世界。通称「異世界」が発見された。 異世界は星の数程あると言うが、現在、この世界の人間が発見できた異世界は5つ。 1つ目は国家エリアス。先ほど紹介した通りの国だ。 2つ目はマホラジアム。去年とある4人組パーティーと写真を撮った事が話題になっていた。 3つ目はアルサー王国。 平凡な国で特産品のアルサチャードが美味しいことくらいしか私は知らない。 四つ目は、カイア帝国。 この国は少し私たちの住んでいる世界に似ているが、この国より遥かに科学技術が発達していて、サイボーグが多い。この国で体に機械を埋め込んでいないことがバレれば体にチップを埋められるという情報があるため、この国に行くことは中々ないだろう。 5つ目は、日本。 日本は今私達が住んでいる国。それも他の国からしたら異世界だ。 つまり紹介した国の中から異世界は4つある。 ちなみに、政府が異世界に行く方法はあるが、絶対にやるなと言われている。 しかしこの学校は秘密裏に行っている。バレたら100年続いたうちの伝統も終わりだ。 過去には死人も出たことがあるが、全てでっち上げた。裏社会の人間と繋がっているんじゃないかと言うくらい、やばい中学校だ。 次の日、先生からカタログが配られた。 「異世界用衣装のカタログです。この衣装には耐久性、防護性があり、雑魚な攻撃では怪我をすることはありません。」 異世界用衣装。私が一番楽しみにしていた物だ。 まずはベースとなるワンピースやズボンなどを選び、そこから可能な範囲でデコったり整えたりする。オーダーメイドだ。 周りでは「お揃いにしよう」や「これ可愛い」などと言った会話が聞こえるが私には関係ない。友達はいないのだ。ネクタイの衣装にした。 野外活動まで1ヶ月。 今日は班発表の日らしい。みんなは騒いでいるが、私には関係ない。このクラスに友達なんて居ないから。 「皆さん静かに。今から班を発表します。」 テレビに映したその紙は、私をうんともすんとも言わせなかった。 3人編成の班だ。男2人に女子1人。男子は2人だけでつるめばいい。私は一人で探索する。 「今から親睦を深めるために、班を野外活動の班にします。」 親睦もクソもない。最低だ。結局ぼっち。 「俺は神谷壮樹。この班では班長を努めさせてもらってます!よろしく!」 苦手だ。陽キャ系。多分こいつとは仲良くなれない。 「上元……よろしく。」 うわ陰。人のこと言えないけどこいつとも仲良くなれない。 私の番が回ってきた。 「大里レナです。よろしくお願いします。」 これくらいなら陰とも陽とも取られないはず。 結局その日、それ以上の会話をすることは無かった。 次の日。1時間目は英語の授業だ。 何を言っているか分からない。 「Now we will have the students playSuGoroku in groups.」 班ですごろくをしなさいという意味だろう。 最悪だ。仲良くないのに。 「あー!また振り出しからだ。」 「大里さんも俺もお前もまた最初からだ。」 「待って読めない!」 こいつらと会話しているうちに私も自然に馴染めてきた。 クスクスという笑い声が出てしまった。 前言撤回。こいつらとは友達になれるかもしれない。 友達のありがたみを知ってしまうともう元には戻れないらしい。という言葉を聞いたことがあるが、きっとそれは、私の証明だ。 「ねね!大里さんってさ!」 「マジで!大里ヤバっ!すごいじゃん!」 気づけば、私は他人にも心を開いていたらしい。 心を開くと、たくさんの人間が話しかけてくる。 少し前の私なんかとは大違いだ。 「野外活動の衣装が届きましたので、各自確認してください。」 やった!衣装だ!1番楽しみにしていた物。 鏡の前でポーズをとってみる。 「えへへ…!かっこいいじゃん、私。」 「かっこいい、ねぇ。 まぁ、俺の方がかっこいいと思いますけど?」 後ろを振り返ると、壮樹がいた。 ニヤニヤと笑っている。 「声が漏れてましたよ。おじょーさん。」 「なっ!」 いきなり耳元で話しかけられ、顔が赤くなってしまった。 「ちょ、ちょっと!びっくりするじゃない!」 壮樹は腕を頭の後ろに組んでいる。 「悪ぃって!でも正直、お前の衣装結構可愛いと思うぜ。」 「なっ!可愛いより、かっこいいって言いなさいよ馬鹿!」 周囲からの歓声が飛んでくる 「ひゅーひゅー!」 「付き合っちゃいなよ!」 「バカップルだ!」 「っ…うるさいわねぇ、あんた達!黙ってどこかに消えなさい!」 「照れてますよ?」 私は別に、あいつの事を好きという訳では無い。 断じて好きという訳では無い。 野外活動当日 「今から言う手順を実行してください。 飛ばされる場所は全員ランダムです。 帰り方の紙も渡しておくので皆さん、また無事に会えることを祈っております。」 手順は簡単だ。 ①部屋をカーテンで覆い、周りの光が入らないようにする。電気も消す。 ②倉庫の中に入り、30秒目を閉じて数える。 この時、絶対に声を出してはいけない。 ③30秒後に目を開け倉庫から出るとランダムで国家エリアスのどこかに到着する。 ね?簡単だろ? 「今から皆さんには、生死の危機が迫った時の為に、これを渡しておきます。 どう使うかはあなた次第です。異世界に行ってから開けてくださいね。」 私たちは手順②を行っていた。 倉庫はずっと使われていないので埃っぽい。 ヤバい…鼻がムズムズしてきた。 「くしゅんっ!」 あ、ヤバい。 これって声を出したことに入るのかな。 私達、別の世界に飛ばされちゃうのかな。 「おい、30秒たったぞ。」 目を開け、恐る恐る倉庫から出る。 「遅いぞ新入り!アルサーの戦士たるもの10分前行動を心がけろ!」 しまった!どうやら私達が平凡だと思っていたアルサー王国に飛ばされてしまったみたいだ。 しかも、アルサーにはヴァンパイアが出るらしい。 そして私たちは今、何故かヴァンパイアハンターになる事が他の人の取り違いによって、決定してしまったのだ。

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