下・点と点

  私はクラスメイトのために事件を紐解いていった。しかし、私は全クラスメイトに話すつもりは毛頭なかった。


 放課後、誰もいなくなった教室に、たった三人だけ残っている。これが友人同士のなんでもない集会だったら、どれほどよかったか。


「わかったの……?」


 私達は適当な机の上に腰掛けている。私と静が向かい合っており、崎島は私の隣で神妙な表情をしている。


「こう言っちゃ悪いけど、静ってやっぱり怖がりよね。わかったかどうかなんて、自分の犯罪計画に自信があれば訊かないよ」


「怖いものは怖いもの……」


 ぽつりと零した静に、苦笑する。


「でも、優しい。フード・コートで私と崎島の推理を助けてくれたのは静だった」


 けど、と思う。静はあの時、葛藤していたのではないか、と。私達の推理を助けようとする一方で、自分ともう一人が犯した罪がバレるのを恐れた。彼女は不器用で、優しいのだ。


「けど、罪は見逃してあげない。これから私の推理を話す。最後に、答え合わせをする。それでいい?」


 静はこくりと頷いた。


「じゃあ、まず……。犯人の正体から。これは私が鈍感じゃなければもっと早く判明していたことだね。犯人は、静と、もう一人のシズ。水無瀬優香の子供、水無瀬シズ」


 静は何も言わない。


「土曜日に偶然フード・コートで静と出会ったんだ。その時はボブカットだったから、髪を切ったのかなぐらいにしか思わなかった。実際、翌週の静もボブカットだったし。けどさ、後から考えるとおかしな点が見つかってね。

 土曜日の静は私に話しかけられた時、明らかに戸惑った。まるで、私のことを知らないみたいにね。彼女は私の名前を覚えていなかった。一方で、月曜日の静は私の名前を覚えていた。そして、何よりの証拠は髪型だよ。崎島は犯人の髪型を『ショートカット』と言ったけれど、あれは崎島の勘違いで、実はボブカットだったんだ。一瞬見ただけだったら、確かにわからないかも。だから私は土曜日に会ったのは静ではなくシズだということに気付けなかった。それから……これは崎島が知らないことなんだけど、転校初日、静は佐藤の席に座った時『皮肉ね……』と言った。普通、転校してきたばかりの子は佐藤の死を知らないはず。静は、もう一人のシズが佐藤を殺したことも知っていたんだ」


 極めつけは、『高野さんは大丈夫よ……』だ。あの時は私を安心させようとしてくれたのだと勘違いしていたが、シズと静がグルだったと考えれば、私が殺されないとあらかじめ静が知っていたことも腑に落ちる。


「で、これも私しか知らないことなんだけど、静はネットに友達がいる」


「それがもう一人のシズってわけか」


 崎島が呟いた。


「そう。ねえ静、どうしてシズと協力したの?」


 優しく問いかける。静は二十秒ほど沈黙して、ようやく口を開いた。


 一文一文の溜めが長かった。


 要約すると、こういうことだ。静は三年前にシズとSNSを通じて知り合った。学校で友達ができなかった静にとって、シズは恋人同然の存在だった。ある程度仲を深めて、二年後、二人は現実で会った。初めてお互いの顔を見た時、驚いた。自分と同じ顔、身長、髪型の人間がそこにいたのだ。鏡かと思って触ってみたが、ちゃんと人間の肉体だった。

 その後も二人の交流は続いた。ある日、シズは静に相談する。『何かの拍子に母親のトラウマが戻ってきた。どうやらそれはいじめの記憶らしく、母親曰く加害者の子供が静の転校先の高校に通っているらしい。よければ手を組まない?』

 静は二つ返事で承諾した。シズは制服を知り合いに借りて学校に侵入した後、標的を殺す。万が一顔を見られたらまずいから、その間静が教室にいてアリバイを作る。


「なるほどね」


 静の話を聞き終えた私は、感心するでもなく悲嘆に暮れるでもなく、淡々と言った。


「ここからは私の推測になるけど、シズは本物の死体を見て、やっぱり殺人が怖くなったのかな。崎島は結局殺されなかったし。復讐は正気なうちにやめるべきだね。良かったね崎島、殺されなくて」


「笑い事じゃない」


 静が無言でスマホを差し出してくる。受け取って、シズにコールした。


 光は誰もに平等に差すとは限らない。そこにあるのはただの解決編で、私と崎島は光を浴びた。推理と解決という凄まじい力を行使して静とシズから奪った光だ。


 だからせめて、二人が救われてほしいと思う。身勝手な祈りだとわかっているけど。


「こんにちは、シズ」

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大三角未遂 Unfinished large triangle 筆入優 @i_sunnyman

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