第11話 ウィゼルの町とホムンクルス

 遺跡の未知の領域を発見し、ノアの正体が発覚してから数日が経過した。

 ノアはイオナの保護の元、二人でウィゼルの町を仕事で駆けまわっていた。


 「イオナちゃん今日も仕事?精が出るねぇー」

 「あざま!でも今はノアちゃんも一緒に頑張ってるからそっちも褒めたって!」

 「ノアちゃん、若いのに感心だねぇ。イオナちゃんについてくの大変じゃない?」

 「そんなことない。イオナといると楽しい」


 通行人の声掛けにノアは淡々と答える。

 イオナの元々の人柄もあり、彼女についているノアも町の人たちからは好意的に受け入れられていた。

 事前にロマリーに釘を刺されたこともあり、彼女がホムンクルスであるという事実は町の人々には内緒である。


 「調査に行くの次で何件目だったっけー?」

 「次で四件目」

 「あざっす。じゃああと二件頑張るぞー!」


 ノアは記憶力に長けていた。

 聞き取り調査でイオナが聞き漏らした情報もしっかり覚えている。

 頭脳労働が苦手なイオナには願ったり叶ったりであった。


 「ふぃー、とりあえず今日まわりたいところはこれで終わりー!」

 「イオナイオナ、そろそろあそこに」


 聞き取り調査を回り終えたところでノアはイオナに申し込んだ。

 あそことはユリウスのお菓子工房のことである。


 「よっしゃ、じゃあ行きますか」

 「うん」


 仕事に区切りをつけたイオナはノアを連れてユリウスの元へと向かった。


 「ちーっす!ユリウスいる?」

 「毎日毎日よく飽きないね君たちは」

 「ユリウスの焼くクッキーが好き」


 工房にてイオナたちはユリウスと言葉を交わしていた。

 仕事終わりにユリウスの工房でチョコクッキーを購入するのがノアと一緒に活動するようになってからの通例となっていた。

 

 「ところでノアちゃんの件って結局どうなったの?」

 「この子はウチで助手として頑張ってもらうことになったんだよねー?」

 「うん。私はイオナの助手」

 「なるほどね」


 イオナの言う通り、両親が存在しないノアはイオナの元で住み込みながら探偵助手を勤めている。


 「子供の面倒を見ながら仕事をするのも大変だろう」

 「別にぃ。むしろノアちゃんめっちゃできる子だから大助かりってカンジ」


 イオナはノアの世話をすることに苦労は感じていない。

 むしろ仕事の煩雑な部分をノアが請け負ってくれるおかげでここ数日の仕事の効率がよくなっていると感じているぐらいであった。


 「はい。これは今日の分」

 「ありがとうユリウス」


 チョコクッキーを購入したノアは無表情ながらもどこか嬉しそうにユリウスにお礼を告げた。


 「ヤバっ、なんか変な色の雲出てんじゃん」

 「そろそろ雨が降りそう」

 「急いで避難だひなーん!」


 空模様が怪しくなってきたのを観測したイオナは慌てて自宅へと足を進めていった。

 そして十数分後、空は暗くなって雨が降り始めた。


 

 イオナとノアは今日もウィゼルの町を駆け回る。

 その姿には人間とホムンクルスの違いなど何一つとして見受けられなかったのであった。

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ギャル探偵、ミステリアス幼女を拾う 火蛍 @hotahota-hotaru

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