第24話 意外と頭を撫でられるのは気持ちいい。

「ようエルル。昼に時間もらってもいいか?」


翌日の朝、学院につくとグラディオスがやけに既視感のあるシチュエーションで待っていた。

用があるとしたら昨日の事なのだろう。


「分かった。場所はどこに行けばいい?」


「賢者様とあんたらと俺の4人で話がしたいから場所はまたあとで連絡する。」


「わかったよ。それじゃあまた教室で。」


「おう。」


そうしてグラディオスは学院長室の方に、私たちは教室の方に向かった。

そうして、教室内に入るとクレアが駆け寄ってきた。


「おはよう!エルルちゃん!ルゥちゃん!なんか昨日王宮にどでかい雷が落ちたんだって!王宮の屋根に穴が開いちゃったんだとか。」


「おはよう、クレア。そんなことがあったんだね・・・。」


その雷を起こした張本人だから当然知っているけど、クレアには王宮に呼ばれたことを話していないので知らないふりをしておく。


「お家にいたのにすごい音したから、昨日すっごいびっくりしたんだよね。まさか王宮に落ちているとは思わなかったよ。」


「雷は高くとがっているところに落ちやすいからね。このあたりで一番高いところは王宮だし、自然に落ちるとしたら王宮が一番可能性が高いんだよ。」


「そうなんだぁ。雷属性に適性があるから雷についても詳しいんだね。」


「まぁ、そうだね。現象が起こるメカニズムを理解しているとよりイメージが掴みやすくなるから、そういう座学もやっておくと結構効果的だよ。」


「となると私の場合は風についての勉強かぁ。風ってなんか他の属性と違って物体じゃないからメカニズムって言われてもピンとこないなぁ。」


風は本来見えない物なため、実際他の4属性に比べて習得難易度は高いと言われている。


「まぁ元々目に見えない空気が動くものが風だからね。だからこそ風の魔術はイメージしやすくするために若干薄緑がかった見た目になることが多いんだ。」


「そうなんだ!ねね、今日のお昼休みか放課後また訓練に付き合ってくれないかな。」


「昼休みはもう先約があるけど放課後ならいいよ。ルゥはどうする?」


「私もぜひご一緒させてください。前回はご一緒できませんでしたから。」


「二人ともありがとう!それじゃあ放課後よろしくね!」


もうすぐ授業が始まる時間のためクレアは席に戻っていった。

私達も自分の席に向かうと、丁度アカディア先生が入ってきた。


「みなさん席についてください。本日の授業を始めます。」


・・・・・・・・・

・・・・・・

・・・


「おまたせ、グラディオス。」


昼休み、私たちはグラディオスと合流した。

場所は例によって例のごとく学院長室。


「おう、来たか二人とも。早速本題に入るとするか。」


既に応接スペースに用意されていたお茶を一口飲み、グラディオスが切り出す。


「噂になってるあの雷、お前だろエルル。」


「・・・まぁ昨日私たちが王宮に呼ばれたの知ってるもんね。」


「あぁ、それにあんな雷落とせるのお前だけだろ。何があったんだ?何の理由もなしに攻撃をするような奴じゃないだろ、お前。」


私からは昨日の事は話しづらそうにしているとエンディが代わりに昨日起きたことをかいつまんで説明してくれた。

一通り説明が終わると、グラディオスは怒り半分呆れ半分といった感じで頭を抱えた。


「なんというか、父上が申し訳ないことをした。」


「なんでグラディオスが謝るのさ。私は怒りに任せて自分の父親を殺そうとした殺人未遂者だよ?私は憎まれることはあっても謝られるような人間じゃない。」


すると、グラディオスは少しの間、考えるように顎に手を添えた後、私の傍に来ておもむろに私の頭を撫で始めた。


「ちょっとグラディオス!?いったい何を・・・。」


私が抗議の声を上げようとするのを切って、グラディオスは話し始めた。


「お前はもっと自分のことを考えるべきなんじゃねぇのか?息子の俺ですらおかしいと思うようなことを父上は言ったんだ。建国に関する諸々に立ち会ってたお前が殺意を抱くのは仕方ないだろ。お前はもっと自分の意思を大切にしろ。自分のことを下に見すぎなんだよ。って1000歳以上年上の奴に向かって言うようなことじゃないと思うけどな。」


そうは言いながらも、グラディオスは私の頭を撫で続けてくれた。

頭を撫でられるのはそれこそ到達者になる前以来だったからくすぐったかったけど、意外と心地よかった。


「そんなことないよ。ありがとうね、グラディオス。」


私がお礼を言うと、グラディオスは少しくすぐったそうに顔をそらしながら返事をした。


「いつまでエルル様の頭を撫でているのですか?グラディオスさん。」


そのまましばらく頭を撫でられ続けていると、ルゥがわざとらしく咳ばらいをしてから抗議の声を上げた。

赤くなったグラディオスがぱっと手を離した。


「悪い、もう半分くらい無意識で頭撫でてた。」


「いや、気にしなくていいよ。むしろ撫でるの上手くて私も少し気持ちよかったし。」


私の発言でさらに顔を赤くさせたグラディオスを見て、ルゥがため息をついた。


「とりあえず、要件は済みましたか?グラディオスさん。済んだのでしたら私たちは教室に戻らせていただきます。」


「あぁ、大丈夫だ。悪いな、時間取らせて。」


聞くやいなや、「それでは失礼します。」と言って私の手を引いた。


「ちょっと待ってルゥ。エンディ、改めて昨日はありがとうね。グラディオスも今日はありがと。」


私は手を引っ張られながら二人に礼を告げた。

その後一日中、やけにルゥの視線が私の頭に向いていたような気がした。

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