第23話
集魔樹の森。
集魔樹はその名の通り周囲の魔力を幹に集める。
そのため集魔樹の幹は薄く発光し、その森は不思議な雰囲気に包まれていた。
そして俺達は金欠を解消するべく集魔樹の森を走っていた。
もはや当然のようにエルフィは俺の背中に背負われている。
「そういえばアレンの剣、折れてましたよね。魔物が出たらどうやって戦うんですか?」
「基本逃げる。真魔核は魔物のドロップ品じゃない。行って取って帰ってくればいいだけだからな」
最悪、折れた剣で戦う事になるが戦えないことは無い。
「あ……。魔物を倒す必要は無いんですか」
戦わない方針にエルフィは少し残念そうに呟いた。
そんなエルフィを見て、俺は言葉を足す。
「必要は無い。ただ、この森は中心に近づけば近づくほど魔物が多くなる。もしかしたら戦う事もあるかもな」
「そうですか! でも大丈夫です。いざとなったら私が新しいスキルでぶっ飛ばしてあげます!」
嬉しそうに言いながらエルフィは拳を突き出した。
「慣れるまでは慎重に行けよ? ただでさえ近接攻撃はリスクが高いんだ」
耐久が低いキャラは本当に触れられただけで死ぬ。
そんな中、スキルを有効に使うには自分だけが攻撃を当てられる状況が必要だ。
近接でその状況をつくるのはかなり難しい。
「分かってますよ」
「慣れるまでは俺が前に出る。それで隙を作るから、その隙を大きく広げるためにスキルを使ってくれ」
「なんだか過保護ですね。慣れないです」
ぶっきらぼうに言うエルフィ。
だが命が一つの戦闘は過保護くらいが丁度いいだろう。
「これくらい普通だろ。不注意で仲間が死ぬような事にはしたくない」
死んだら終わりだ。
ここは現実で、もう一回どこかで生き返れるなんて要素は無い。
冒険者は冒険してはいけないんだ。
「ふふ、仲間ですか」
くすくすと笑うエルフィ。
何か間違った事言ったか?
「何だよ?」
「なんでもないです!」
エルフィはご機嫌に言いながら俺にしがみつく。
機嫌は良いようだ。
不機嫌じゃないなら……まぁいいか。
そうして暫く走っているとエルフィが周囲を見ながら言った。
「……何だか声が聞こえませんか? どこか必死な感じの声です」
「いや聞こえないけど」
言われて俺も耳を澄ます。
その時、叫び声が聞こえてきた。
『きゃああああああああああああ!!!』
「『
聞こえた瞬間、エルフィは俺の背中から降りた。
そのまま声のした方向へ走っていってしまう。
「おいエルフィ!」
俺はその後を追いかけた。
………
和装の少女は巨大な蜘蛛のような魔物に捕まっていた。
「お前達は来るな!」
魔物の糸で絡め取られた少女は、自分を助けようとする男達に命令する。
「だがお嬢!!」
少女の言葉に脚を止める禿げ頭の男。
だがその間にも蜘蛛の毒牙は少女へと迫っている。
「何のために俺達がお嬢の元に残されたと思ってるんですか……!」
禿げ頭の男は拳を固く握り、覚悟と共に脚を踏み出した。
「下がれ!」
少女の言葉。
次の瞬間に禿げ頭の男の鼻先を蜘蛛の爪がかすった。
薄く斬られ、血が滴る。
その蜘蛛の巣は全て魔物の領域だ。
一歩でも踏み込めば爪と牙が侵入者を攻撃する。
「ド畜生が……ッ!!」
禿げ頭以外の男達もまた、蜘蛛に近づく事は出来ない。
何もできない時間が過ぎていく。
そしてその間に蜘蛛は少女へその口を近づけた。
「お嬢おおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
目をつぶる少女。
「『
木を蹴り宙からやって来たその人は迷いなく拳を魔物に振るう。
そして一撃で魔物を沈めた。
同時に絡め取られていた糸を取り払い、少女はその人に助けられる。
「怖かったね。もう大丈夫だよ」
少女はその人に抱き寄せられ、笑顔で声をかけられる。
その優しい声音は少女に安心をもたらした。
「そなたは……?」
「私はエルフィ。君の声が聞こえたから飛んできたんだ」
微笑んで言いながらエルフィは少女が傷ついてる事に気が付いた。
「『
彼女の口から銀鈴のようなその声が聞こえると、少女はエルフィの力に暖かく包まれる。
そして気付けば傷は治り、魔物に怯えた心は癒されていた。
絶体絶命の状況。
死すら覚悟した極限の状況で与えられたその安らぎに、少女の目からは一筋の涙があふれる。
そして自然とその言葉がこぼれた。
「そなた、妾のものとなってはくれまいか……?」
その言葉の返事よりも先に、エルフィの背後で蜘蛛が意識を取り戻した。
「『
雷のような速さで振られる折れた剣は容易く蜘蛛を絶命させる。
崩れ落ちる蜘蛛。
しかし少女の目にそんな些事は欠片も入らず、目の前の女神しか見えていない。
「ごめんね。君のものにはなれないかな」
優しく突き放す残酷な言葉。
だが――
「でも、お姉ちゃんにはなってあげる」
その日その瞬間から、少女の生きる意味は確定した。
「お姉さま!!!」
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ゲーム廃人の社畜男、過労で死んだ先はざまぁ系悪役だった 〜追放したヒロインを助けたらベタ惚れされたんだが〜 小林蓮 @tyatarou1234560
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