第22話

 エレベーターを降り倉庫に出て、俺達はバシレイオスと別れようとする。


 だがその前に俺はバシレイオスに呼び止められた。


「アレン! すまない忘れていた。クエスト内容の確認をしていなかった」


「必要なのか?」


「我がギルドでは必須にしている。クエスト内容のトラブルは尽きないのだ」


 荒くれ者も多い場所だ。報酬や依頼など、クエストの内容をちゃんと確認せずに出す奴も居るのだろう。


 俺はバシレイオスに向き直り、クエスト依頼を確認する。


「集魔樹の森での源樹魔石の採取。報酬8000G。問題無いか?」


「ああ、大丈夫だ」


 手短な確認が終わり、今度こそ大丈夫だろうと俺は前を向いた。


「じゃあ行くよ。色々とありがとうな」


「……アレンよ。少し待て」


 だが引き止められてしまった。


「何だ?」


「君達の行き先、集魔樹の森では冒険者が行方不明になるという事件が多発している」


 クエスト依頼の紙をしまうと、バシレイオスは真剣に言った。


「君達なら問題無いだろうが、万が一ということもある。気をつけてくれ」


「分かった。気をつけるよ」


「それだけだ。頑張ってきてくれ」


「ああ、ありがとう」


 そう言って俺達はバシレイオスと別れた。


………


「じゃあ行くか」


 と、俺がエルフィを見るとエルフィの腹の虫が鳴き声を上げた。

 軽く赤面しながらエルフィは提案する。


「あの……その前に何か食べませんか?」


「そうだな。行く前に何か食べるか」


 茶菓子だけでは力は出ない。

 ある程度ちゃんとしたものを食べなければ。


「そこにいいお店があったんです。ついてきてください!」


………


 エルフィが先導し、着いた先は串肉の屋台だった。

 串肉を前に目を輝かせるエルフィにねだられ、俺はそのまま串肉を奢らされてしまった。


 俺が寂しくなった懐に肩を落としている間、エルフィは串肉を美味しそうに頬張っていた。


「エルフィ、別に奢るのは良いけど俺もあまり金無いからな。自分で買える時は自分で買えよ?」


 ほとんど準備もせずこちらに来たので俺の懐には現在、金貨一枚しか残っていない。


「私も買えるなら買いますよ? でも今は銅貨一枚もないんです。今日の宿代で使い果たしました」


 ひらひらと手を振りながらそう言うエルフィ。

 一日の宿代で無くなるなんて、どれだけ手持ちが少なかったんだ。


「流石に無さ過ぎないか?」


「いつもその日を暮らすので精一杯だったんです。私の取り分は『赤龍の牙』の皆さんの懐の中に入ってますから、貯金はほとんど無いんですよ」


 そうだ……エルフィは稼いでるのに貰ってないんだった。


「まぁ、その分はアレンに甘やかしてもらうので良いんですけど」


 エルフィは微笑みながら俺を見る。

 その微笑みに俺は少し背筋が寒くなった。


 この借金を払うには時間がかかりそうだ。余りにも大き過ぎて一生で足りるかどうか怪しくなってくる程に。

 仕方ないのだが。


「なので、私達のお金は今アレンが持ってるお金で全部です」


 残金、金貨一枚。

 金貨一枚は10000Gだ。


 このゲームは物価が日本と同じように設定されている。

 二人分の食費や消耗品、その他雑費も含めれば旅先であるのも相まって全く足りない。

 少なくとも明日の宿代は無いと思っていい。


「今日稼がないと明後日には無一文だな」


「そうです。実は結構切羽詰まってます」


 もう少し余裕があると思っていたが、そんな事は無いようだ。


「……できれば毎日ご飯は食べたいですね」


 頬張っている串肉を噛み締めながら、これから起こるかもしれない飢えを覚悟するエルフィ。


 そんなエルフィに俺は明るく言った。


「ま、大丈夫だ。明日には豪遊できるくらいの金が入ってるよ」


「おお、やけに自信たっぷりですね。何があるんですか?」


 自信満々な俺を見てエルフィは目を丸くし、根拠を尋ねた。


「今受けているクエストの行き先にかなり高値で売れる宝があるんだ」


 集魔樹の森、その中心に『真魔核』というアイテムが生まれる。


 それは森全体の魔力が集められ、極限まで圧縮された巨大な魔力の結晶だ。


 いわば超大容量の電池。


 魔力が主な動力として使われるこの世界。特にこの都市ではかなり重宝されるアイテムとなる。


 この世界で貧乏に苦しみたくはない。


 さっさと大きく稼いで、俺は楽しくこの世界を生きるんだ。


「ぱっと宝を取ってきて、今夜は豪勢な美味いもの食うぞ」


「おお……! アレンが頼もしく見えます!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る