第2話

 歩夢は死んでしまった。

 夕方家に帰り、目を赤くはらした母親からの言葉に膝から崩れ落ちた。

ーーー歩夢、歩夢、歩夢、どうして。どうして。

 息もままならない嗚咽をこぼしながら、薫は頭の中で歩夢に問いかけるが、答えが返ってくることはない。

 頭が割れそうなほど涙を流して、それでもお腹が空くことに腹が立って、その後無償に走りたくなって家を飛び出した。

 ただ、ただ歩夢に会いに行きたかった。

 歩夢の家の前まで走っていくが、家に電気はついておらず、もちろん歩夢の部屋にも電気は点っていない。

 この感情をどう対処すればいいのかわからず、持て余していると、一台の車がこちらに向かってきた。歩夢の家の車だった。

 車の助手席から歩夢の母親が降りてきた。私などとは比べ物にならないくらいに目元を赤く染め、正気のない顔をしている。

「おばさん・・・。」

 声をかけると焦点の合わない瞳がこちらに向く。

「薫、きてくれてたのか。」

 おばさんの後ろから声がしたと思ったら、師範だった。

「先生・・・。」

「あぁ。」

 短い返事が何を指しているのかわかった。

 声は落ち着いているように見える師範も、やはり強く目を擦った後があり、言葉にならない。

「すまんが、今から用があって、今日は帰ってくれるか。」

 優しい口調だが、強い拒絶を感じて「はい。」と返事をする。

 形容し難いこの感情を持て余したままの帰宅は慣れたいつもの道だというのに先の見えない暗闇に通じているような気がした。

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