しがみついて紫陽花
@hydrangea0000
第1話
花が枯れるときには独特の表現がある。
例えば、桜は「散る」、梅は「こぼれる」、菊は「舞う」、椿は「落ちる」など。
そして、紫陽花は「しがみつく」と表現されるらしい。
自分の人生に未練がましくしがみつくのは側から見れば酷く滑稽だろう。しかし、その人が自分の大切な人ならば、いくら滑稽でもしがみついて生きてほしいと願うはずである。
私は、自分が終わるとき、いくらバカにされても、滑稽でも自分の人生にしがみ付いていたい。
朝比奈薫は女子にしては身長の高く、男勝りな性格で、負けん気が強い。そのおかげか、幼い頃から近くの柔道場に通って柔道を習っており、高校2年生ながらも強豪校のエースとして県大会の出場を決めている。
薫には同学年の糸井歩夢という幼なじみがいる。歩夢は薫の通っている道場の師範の息子である。小柄で、恥ずかしがり屋な歩夢を薫は弟のように感じており、また、歩夢の儚げなのでは雰囲気に少しばかりのコンプレックスを抱いている。
そうはいっても二人の仲はとても良く、家が近いということもあり、両親たちの交流も盛んで、本当の姉弟のような間柄である。
中学までは同じ地元の公立中学に通っていた二人だったが、薫は高校進学と同時に強豪校からスカウトが来たため、地元の高校に進学した歩夢とは違い、少し家から遠いその強豪校に進学した。
高校進学後、違う高校であることや、薫の部活の練習が終わるのが遅いことなどによって、だんだんと歩夢と話す機会が減ってきていた頃、久しぶりに練習がなく、早めに帰宅している際に前から少し顔を俯けながら歩夢が歩いてきた。
高校生になり、少し身長も伸びただろうが、それでも薫よりも5センチほど小さい歩夢を見て相変わらずだなと感じ、軽く声をかける。
「歩夢ー!久しぶり!!」
「・・・薫ちゃん?」
そこまで大きな声を出したわけではないが、ビクッと肩が跳ねて、怪訝そうな顔を浮かべる歩夢を見て少しいつもと違う雰囲気を感じる。
「どうしたの・・・?」
「薫ちゃんかぁ。びっくりしただけ!!なんか久しぶりな感じするよね。
今日は何もないの??」
少しいつもと違う気がしたが、話しかけてみると元気がないわけではなさそうだ。思い過ごしだったのかと納得して少し話をした後にその日は解散した。
次の日の朝、救急車とパトカーのサイレンで目を覚ました。救急車とパトカーの目的地は歩夢の家だった。家の前には小さな人集りができていて、救急隊と見られる人たちが担架を持って中に入っていく。しばらくして担架に載せられたと思しき人が、幕のように貼られたブルーシートに隠されて救急車に運ばれていく。糸井のおばさんがその後を追うように真っ青になりながら救急車に乗り込んだ。
「おばさん・・・!!」
少し目が合った気がしたが、救急車はそのまま発進していった。
いやな予感はしていたが、運ばれていったのは歩夢だった。
その日の夕方、病院で歩夢は死んだ。
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