第3話

 歩夢が死んだ2日後に葬式が行われた。喪服ではなく、高校の制服に袖を通し、喪主である歩夢の両親に挨拶をした後に、棺に向かう。

 歩夢はとても綺麗な顔をしている。薄く化粧をしているのか顔に色もあり、まるで眠っているようで、涙が溢れる。

「歩夢、起きてよ。」

 当たり前だが、ピクリともしない。体をゆすって初めてとても歩夢の体が冷たいことに気がつく。

 あぁ歩夢はもう生きていないのだと現実に感じて初めて声にならない悲鳴をあげる。一番最後に合ったとき、無理やりにでも話を聞けばよかった。また今度聞けばいいと思うのではなく、今聞かせてというべきだった。そうしたら歩夢は心のうちを明かしてくれただろうか。姉弟だと豪語するならしっかり弟を見てやればよかった。

 あのときこうすれば、という意味のない仮定に心が疲弊する。声を上げながら泣く私を歩夢はどんな顔でみるだろう。今更だと言われるだろうか。


「薫ちゃん」

 泣き腫らした私に声を震わせ、疲れ切ったような表情の歩夢の母親が声をかけてきた。

「今日は来てくれてどうもありがとう。」

「これね、歩夢の部屋にあったんだけど、薫ちゃんにって書いてるから読んであげてくれない?」

ーーー歩夢が私に?


「歩夢がですか?」

「えぇ、そうなの。

 あのね本当に今日は来てくれてありがとうね。

 歩夢はね、あなたのことを本当の兄弟のように思っていたと思う。

 今まで、本当にありがとうね。」

 私よりももっと当たり前に悲しくて、喪失感があって、言葉にできないくらいの大きな悲しみを背負っているはずなのに、私にこの手紙を渡してくれて、感謝の言葉まで述べるおばさんを見てまた声をあげて泣いた。 

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