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朝、いつも置かれている手紙が置かれていなかった。あの空色の封筒はどこを見てもない。それどころか、郵便受けには何一つ入っていなかった。私の手紙でさえも。
私はとにかく焦った。昨日まで普通に続いていた会話が急にプツリと切れてしまうのは正直怖い。何かあったのか。自分の昨日の行動を思い出しても何も不自然なことはしていない。ずっと続いていた手紙も机の引き出しの中に入っているままだ。家の中を全て探したがどう頑張ってもあの手紙は何処にもない。私はまた、夜に手紙を出すことにした。しかし、手紙が返ってくる事はなかった。
それから4日立った時だった。郵便受けに手紙が入っていた。見慣れた空色の封筒。私はそれを開けた。あの人に何があったのか、なぜ急に返信できなかったのか知りたかったからだ。
ただ、手紙を開いた瞬間、息を呑んだ。手紙の文が小学生が書いたような文字だったからだ。いつものようなコンピュータで打ったような活字ではなくうねうねとした文字。最初の一画目は筆圧が濃いが、文字のハネや、ハライの部分はとても薄い。文字の大きさもバラバラ、行の間隔は曲がっていた。だから、私はこの文を解読するのに時間がかかった。
木下カエデさんへ
こんにちは。手がみ返すのおくれてごめんなさい。字が汚いけど、ゆるして下さい。どうしても私の字で書きたかったんです。
あなたは、しようらいについてなやんでましたね。私も同じようになやんでいたんです。
実は私はペンを持てないんです。私の手には力が入らず、モノを持つのも何をするのも苦労です。今はきかいに支えられてペンをもつてますが。私はとくにびょうきになったことはないです。ただ、私たちはきかいにたよりすぎたんです。
学生の時何もわからず、結きょく近くの大学に行って科学者として活どうしてました。とくに好きなこともなかったのですが、私のはっひょうで多くの人の生活が幸せになりました。しかし、それは人間が動かなくなる時代の変化でした。
私のはっぴょうできかいは人間に有利に働きました。それによって、人間はきん肉を使わず、しだいに退化してきました。そのうちに温だんかが進んでもうどうしようもないところまで悪化しました。もう戻れなくなってしまったんです。
今まで私はAIで自分の脳をよみとり、文字として具現化してました。自分の作ったもので字が書けなくなるなんて哀れな話です。
こう書いたのも私の命に終わりが近づいているからです。若い頃の酒やタバコのつけが今にきてるのでしょう。自分で作った最高のぎじゅつを使ってえんめいするのもあきあきしてました。そんな時にあなたのてがみが私の元に届いたあの日から、あなたのてがみは私の中で楽しみでしかたなかったです。
このてがみを実は一どAIで書いたものを手本に書いてるなんて言ったらあなたはどう思うでしょうかね。皮肉に思いますか、笑いますか?あなたに空いたいです。あなたのいる世界に、時代に戻れるならわたしは正しいセンタクをえらべたでしょうか。
汚い字でこめんなさい。あなたと対面で話すのがゆめだったから。私もずっとあなたのこと待ってた。
木下カエデより
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