第27話 夢から現実へ……
長い夢から目覚めた純白の少女は、食事などを済ませると、黒竜に声をかける。
「ねぇラグーナ! 神気の鍛練しよっ!」
胸の前で両手を握りしめるアーチェ。その姿は気合いに満ち溢れている。
「……やる気があるのはよいことだが、神気を磨くには時間がかかる。そう焦ってやるものでもないぞ」
「うん、わかってる。だけど今やっておかないと感覚を忘れちゃいそうでさ」
「……」
ラグーナはアーチェの言葉に思考を巡らせる。感覚を忘れたくないという少女の思いは、昨日の鍛練のことだとラグーナは考えている。
ラグーナ自身、昨日はアーチェに対して厳しく教えた記憶があった。
しかし……。
「アーチェよ……痛みや恐怖が癖になった、というわけではないであろうな?」
それは、ラグーナの願いだった。でなければ天界に帰った時、彼女の父である創造神が怒り狂う。そうなる未来がラグーナには見えたのである。
そんなことを言うラグーナに、アーチェはキョトンとした顔をする。
「……へ? な、なんでそうなるのよ……。痛いのはいやだし、怖いのもやだよ」
「そ、そうか。……なら安心した。クリティシアスの奴とそんな理由でぶつかることになるのはゴメンなのでな」
「?? ……なんでお父様の名前が出てきたのか分からないけど、お父様はそんなことで怒らないと思うよ」
ラグーナはそう言うアーチェをジトーッとした目で見つめる。
黒竜が少女に疑いの眼差しを向けるのも無理はない。ラグーナとクリティシアスはよくぶつかり合うこともあったのだが、それは『創造』の神と『破壊』の神という性質上だからであり、仲が悪いわけではなかった。むしろ親友であった。
喧嘩したのはそれこそ、『手作りマグマ温泉』の時くらいであろう。しかし、創造神は自らが造り出した世界以上に娘であるアーチェを大切にしている。
そんな娘が新たな性癖の扉を開いて帰ってきたとしたら……。
奇妙な視線を向けてくる黒竜に疑問を浮かべながらも、無垢な女神は言葉を紡ぐ。
「それよりも鍛練だよ鍛練! いいこと思いついたって言ったでしょ。それを実戦で試したいの!」
「あぁ。そういえばそんなことを言っていたな。では、その思いつきの作戦がどのようなものなのか、我が確かめてやろう」
夢での鍛練の成果を、現実でも実現したくてやる気に満ち溢れた少女。
それに対する黒竜は、昨日の今日で大きな変化はないだろう、と思っており、むしろ昨日より手加減しようと考えていたのであった。
――――――――――――
――――――――
――――
広場には再びラグーナによる神域が展開される。
神域には神、または神の恩恵を受けたもの以外はの存在は入れない。ラグーナの神域は『再生』の力を持つ。
自然が荒れても、それは『再生』の力により元に戻る。神の力を受けたそれは、むしろ元よりも丈夫になるだろう。
アーチェは内なる神力に意識を向ける。そうして、魂を部位集中の神気で強化してみる。
(よし! できてる。夢での出来事を現実でも実際にできるか、少し不安はあったけど大丈夫そう!)
「じゃあ、いっくよ~!」
そう声を上げる少女に、黒竜は
――――だから油断した。
少女は黒竜の元へと走り出す。
ドンッという衝撃がラグーナの頭に走る。
「ッ!?」
ラグーナがアーチェに蹴られたと認識できたのは衝撃を受けた後。
走り出したと認識したアーチェの姿は残像だった。
残像を残すほどの速さ。黒竜の元へ一瞬で駆けた少女が放った蹴りは油断していたとはいえ黒竜に大きな一撃を与えた。
――――夢の中で長い時を過ごした純白の女神。彼女の夢での努力は実現した。
――――部位集中を夢の中で鍛えた彼女の速さはまさに『神速』だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます