第26話 夢想の世界

 曖昧で不思議な空間にアーチェはいた。


「成功……したかな……?」


 アーチェは純白のドレスに身を包む少女と漆黒に覆われた身体を持つ夢想の竜が戦うのを見つめている。


「これは夢で、今見てるのは現実で起きた出来事の記憶。私の魂に刻まれてる現実世界の記録。うん……再現できてるね」


 純白の少女は黒竜に突っ込むが、黒竜の持つ尻尾に容易く対応されている。

 自由自在に動く尻尾に、何度も何度も振り払われる少女は、一度立ち止まると周りに白いオーラを纏う。


「この時、ラグーナの尻尾を突破することができてすごく嬉しかったんだよね……でも……」


 白き華の少女は、風のように黒竜のもとに走り出す。その動きは尻尾の動きに対応して竜との距離を縮めていく。黒竜はそんな少女を相手に翼を広げ、ぶわりと風圧を放つ。それだけで少女の身体は風に容易くのまれて飛ばされる。花びらのように宙を舞う少女の身体。


「……あはは、この時の絶望感はこたえたな。……まぁ、尻尾を突破すれば勝ちだと思いこんでた私が悪いんだけど」


 座り込む少女に対して、夢想の黒竜は身体から漆黒の神気による神圧を放つ。その圧を身に受けた白の少女は震えだす。

 同時にアーチェ自身もその圧を受ける。


「ッ!」


 魂に刻まれた恐怖は、夢見るアーチェの魂を震えさせる。


「へへっ……、夢って分かってはいるんだけど。……やっぱり恐怖を感じちゃうな……」


 圧倒的な力の差を、存在の内側にまで届かせる黒の神圧。やっぱりラグーナは強いと改めて理解させられる。座り込んでいる少女は神圧を受けた恐怖に、神気を纏えていない。その姿を震えながらもアーチェはじっと見つめる。


「感情が乱れて神気が上手く纏えなくなってる?」


 神気を纏えていないことで、より大きな神圧の影響を受けている。そう分析するアーチェ。


「より神気を強固にするための部位集中……どこに意識をすればいんだろう……」


 アーチェは震えながら考える。


 ――――今見つめている私は震えてる。そして夢を見る私も震えている。


 神圧は内側に影響を与えてくる。


「!! ってことは私自身に集中させればいい。正確には私の魂に神力を集中させればいいんだ!」


 アーチェはそう言うと「スゥー」っと呼吸を整える。震える心を落ち着かせるように。そして、ゆっくりとを神力で満たしていく。


 アーチェはいまだに震えて立ち上がれない純白の少女にゆっくりと、しかし確かな足取あしどりで近づいていく。


 神気を纏ったアーチェは純白の少女を後ろから優しく抱きしめる。


「……大丈夫。……私ならできる」


 アーチェの身体は純白の少女であるアーチェ自身の身体に溶けるように沈み込んでいく。

 心身一如しんしんいちにょ

 心と体が夢の中で一つになる。


 アーチェの身体の震えは止まっていた。純白の少女の魂は黒竜の神圧に耐え切る強さを手に入れる。魂に神気を纏うことによって、恐怖を克服した純白の女神。


 ――――その瞳には虹のような光が揺らめく。


 ――――こうして純白の女神は、夢想の黒竜を相手に、長い夢の世界を過ごした。

 

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