第25話 夢と願望
純白の少女は、漆黒の竜に背を預けて空を見上げる。暗くなった空には月と星々が光輝き、大地にほのかな光を届けている。
アーチェは瞳に夜空の景色を浮かべて思いふける。
(『神気』をもっと使いこなせるようにならないとだし、ラグーナの『神気』の圧を受けても、恐怖しないくらいには強くなりたいし、やることが沢山だなぁ……)
部位に集中させる神気は、神力の消費を抑えたいアーチェにとっては必須の技術になるだろう。
目標としてラグーナと同じくらい強くなる、というものがアーチェの新しい目標に加わった。圧を受けただけで恐怖してしまうようでは同じ世界を歩めない、そう考えたからである。
(あとは寝惚けてラグーナを食べないようにしないとね。夢と現実の区別があそこまでつかないとは思わなかった……)
思い出して、ふふっと微笑みを浮かべるアーチェ。
そんな彼女は何かひらめいたのか、ハッとした顔をする。
(夢……! もしかして、夢の内容を自分自身で想像できれば、『神気』の修行に役に立つんじゃない!?)
アーチェは夢で果実を食べたことを思い出す。それは確かに甘い味がして、手に触った感覚だってあったのだ。
夢とは不思議なものだ。時には感覚を伴い、そして感情だってある。しかし現実ではない。だがそれは確かな現実味を帯びたものである。
(夢は自分の内側にあるもの。だから『神気』を使う要領で神力を内側に回せばできる……はず。いや、やってやるっ!)
心の中で強く意気込むアーチェ。決意に満ちた彼女はキリッとした表情をする。
夢は魂の記憶。肉体、精神、心、それらを動かす源が魂なのだ。自分自身が忘れていたことを夢で見ることもあるし、夢の中では自分の願望すら叶うこともある。それは現実ではないが、確かな、自分の願いの記憶。想いの記憶。
「アーチェよ、さっきから表情の変化が激しいようだが、何を考えている?」
そんなラグーナの問いかけに「へっ!?」と声を上げるアーチェ。
「も、もしかして……私、そんなに顔に出てた?」
「うむ、面白いくらいに出ていたな」
ラグーナは、空を見上げながらころころと表情を変えるアーチェを面白そうに眺めていた。
見られていたと知ったアーチェは頬を染める。
「うぅ……まぁ、その……いいことを思いついて……」
「ほぅ、何を思いついたのだ」
「えへへっ、それはまだ内緒だよ。まだ思いついただけで試してないし」
「ならばその思いつきとやらがお前の口から語られるのを楽しみにしておくとしよう……」
そう言って無邪気に微笑む純白の少女。そんな彼女を優しく見守る漆黒の竜――。
寝る準備を済ませたアーチェは、黒竜の尻尾を枕代わりに身体を横にする。随分と早い時間に寝る少女に、ラグーナは何も言わずに尻尾を貸し出す。
――『夢想』。
こうして純白の女神は眠りにつく。
夢の世界は非現実的な世界だ。だからこそ、強く望んだもの、強く想ったものが夢の世界の現実となる。
確かな目標を見据えた夢は、現実の世界でも大きな力となるだろう。
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