第24話 部位集中

 日は沈み始め、広場はやがて闇に覆われるだろう。


「ごちそうさま! 果物を集めてくれてありがとう、ラグーナ!」


「うむ、神気を使った後だと腹が空くと思ったのでな。……食事にしても睡眠にしても、力を使うのであればしっかりとらねばならぬ」


(お腹が空いてたとはいえ、寝惚けてラグーナ尻尾を食べようとしてたなんて……恥ずかしすぎる!)


 アーチェはその出来事を思い出すだけで、羞恥しゅうちで顔が赤く染まる。


 『想像』を司る女神だからこそ夢と現実の出来事が曖昧になりやすい。夢と現実の区別はハッキリさせようと思うアーチェであった――。



「さて、今日はもうやらぬが、やはり『神気』の鍛練たんれんはこれからも必須になるであろう」


「……うん……そうだよね……」


鍛錬でラグーナの『神気』による圧を受け、その身に恐怖を刻まれたアーチェはそれを乗り越えたいと思う反面、「できるかな?」という不安な気持ちも大きかった。


「今は神気を全身に纏わせているであろうが、使い慣れてくると体の部位を集中的に強化することもできる」


「部位に集中……して? それは全身に神気を纏うのと、どう違うの?」


 今まで『神気』は全身に纏うものだと思っていたアーチェは、そんな疑問を投げかける。


「全身に神気を纏うよりも扱い方が難しい反面、纏う部位を制御することができればより強力な力を得られる。当然だ。例えば、速く走りたいなら全身に纏うより、その神力を脚に集中して強化したほうがより速く走れる」


「でも、その時に攻撃を受けたらより大きなダメージを受けることにならない?」


「そのまま受けたらそうなるな。……だが受ける部位に神力を回して強化することができればダメージはより抑えられる」


 部位の一部に『神気』を纏わせることができるなら戦術の幅が大きく広がるのはアーチェも理解できた。しかし、少女は唇を尖らせる。


「む~。でもそこまで神気を使いこなすのって絶対難しいよね……」


「もちろんそうだな。だが、そこまで使いこなせた『神気』はそれこそ『神意』に匹敵するような力を持つ。だからこそ時間をかけて『神気』を磨く必要があるのだ」


「神意に匹敵する力……」


 『神意』は世界の常識を覆す、そんな力を秘めている。しかし、大きな力を持つ反面、神力の消費が激しい。


 『神気』は神力を使う上で基礎的な力ではあるが、部位に集中させるのは応用的な使い方になるだろう。だからこそ『神意』にすら匹敵する力を秘めていた。


「なに、心配することはない。お前は『想像』を司る女神なのだ。身体の一部を意識して神力を流すイメージを繰り返せば必ず使えるようになる」


 そんなラグーナの話を聞いてアーチェは考える。


(イメージを繰り返す……反復練習が必要なんだろうけど、早く上達できる裏技みたいな方法はないかな……)


「ねぇラグーナ、なんかこう……早く上達するコツ、みたいなのはないの?」


 そんなアーチェの問いに、ラグーナ「う~む」とうなり声を上げて考える。


「我自身、部位集中は得意ではないし、そもそも使うことすらない」


「えぇ……なんで私にそれを教えようと思ったの?」


「我は竜、そんな小細工をせずとも強い。しかしアーチェよ、お前はそんな我に追いつきたいと、同じ世界を見たいと想いをぶつけてきたではないか」


「うっ……それは……そうなんだけどさ……」


 衝動に駆られて放った言葉とはいえ、改めて言われると恥ずかしくなったアーチェは、目を合わせづらいのか、顔を赤くして少し俯く。


「竜型の神は体自体が強大な武器になる。対して人型の神であるお前が我に追いつこうとするのであれば、その体を活かして戦う術を身につける必要がある、そう思ったまでだ」


「身体を活かす……かぁ……」


 自分の身体を見つめながら呟くアーチェは、確かにラグーナと同じ条件で戦う場合は知恵を使わないといけないな、と考えさせられた――。

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