第20話 戦うための術
泉で身体を清めた純白の乙女は、普段以上に美しく
心身ともにリフレッシュしたアーチェは、「んぅ~っ」と言いながら天に向かって背筋を伸ばす。
そんな少女にラグーナは声をかけた。
『気分転換は済んだようだな。ではアーチェよ、お前にこの世界で戦うための
そう呟いたラグーナにアーチェは疑問を浮かべる。
「戦う術? 純白の槍だってあるし、それじゃあダメなの?」
『ここが神力を無限に満たせる天界であれば特に問題はないであろう。……だがここは地上の世界。扱える神力の量は限られている。神力を外側に放出する純白の槍は極力使うのは避けた方がいいだろう』
『神力』とは、神が超常現象を起こすための『力』の源である。天界は神の住む世界であり、神秘に満ち溢れている。そこでは『神力』を消費してもすぐに生成しなおせるだろう。
しかし、この地上の世界は神秘の薄い世界。一度使用した『神力』は非常に回復しづらい。天界と比べるならそれこそ天と地ほどの差がある。
「そ、そんなぁ……」と呟くアーチェに対して、ラグーナは言葉を続ける。
『いくら神魂の契りで神力を生成する手段を得たといっても、得た力をより効率的に使っていかなければならない。お前の神力を万全の状態にするのにはかなりの時間を要するだろうからな……』
「えぇ……。いまの私ってそんなに神力って少ないのっ!?」
アーチェは自らに宿る神力がどのくらいあるのか、それを把握するのが苦手だった。だからこそ時にそれ以上の実力を発揮することもあるのだが……。
『少ない……というか世界を対象とした『神意』による消費が激しすぎたのだ』
「ゔうっ……それは……その……」
何とも言えない表情をしたアーチェ。その声も居心地の悪さからだろうか、徐々に小さくなっていく。
『なに、心配する必要はない。
「う、うん。わかった。……お、お手柔らかにお願いね……ラグーナ」
『うむ、我は竜ゆえ手は柔らかくないが、死なぬよう加減はする。だから安心するがいい』
「死なぬように加減……安心……?」
呟くアーチェは、冗談なのか本気なのかわからないラグーナの言動に遠い目をするのであった――。
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森の外れにある広場。その空間のことを生き物は認識できないであろう。神なる領域。
白くて華奢な身体の少女を、巨大な黒き竜は尻尾を器用に使い弾き飛ばす。悲鳴を上げる少女の身体は弾丸のように放たれ、何もない空間にぶつかると地上に落下する。
人間なら間違いなく原型を留めていないであろう一撃を受けて地面に張りつくように倒れるアーチェ。
「ラ、ラグーナの鬼畜! 安心のあの字もないんだけど……」
そんなことをボヤくアーチェの金の瞳には涙が浮かんでいた――。
――――時は少し遡る。
ラグーナの言った『より効率的な神力の使い方』とは、『神気』を使い実戦をして、経験を積んでいき『神力』を鍛えるというものだった。
『神意』が神力を外側に向けて放つ力なら、『神気』は神力を内側に向けて使う力だ。
そんな『神気』は神力を使う上での基礎となる力であり、身体能力の強化、体の傷を治癒したり清めたりと様々な使い方ができる、そんな神の力の一つである。
根のない木が育たなかったり、土台が不安定ならその上に築き上げられるものも不安定になるように、基礎という名の土台というものは、とても大切なものである。
『神意』が応用的な力の使い方とするなら、『神気』は基礎的な力の使い方になる。『神気』の使い方を鍛えることでより効率的に神力を使えるようになるのだ。
ラグーナから『神気』という力の説明を聞いて、なるほどと思ったアーチェはラグーナに言った。
「私、もっと神気を上手く扱えるようになりたい!」
笑顔でアーチェはそう言い切った。……言い切ってしまったのだ。その言葉を聞いたラグーナは宝石化を解いて竜の姿へと変わり、少女に告げる。
「やはり言葉で語るより実践あるのみ。お前の身体に我が経験を刻み込んでやろう」
そう言うラグーナは随分と生き生きとしている。
……もしかしたら宝石の姿が長く、鬱憤がたまっていたのかもしれない。
こうしてラグーナによる、アーチェの特訓が始まったのであった。
――――アーチェはラグーナに、対して強く想う。
――絶対ギャフンって言わせてやるっ!!
こうして、負けず嫌いな純白の女神は再び全身に『神気』を纏わせていく――。
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