二章 神力の章
第17話 泉の女神と幻想の花
街道からは外れた場所にある森の中。そこには背の高い木々に囲まれた泉がある。普段は静寂な泉は今、幻想的な空気に満ち溢れていた。
小鳥のさえずり、風が揺らす葉の音を伴奏に泉の中から美しい歌が森の中に響く。
――♪~♫~♬~。
アーチェとラグーナは現在キニギドゥラを目指して旅をする道中である。しかし、今は森の中にある泉の中に身体を預け、長旅の疲れを癒していた――。
深緑に囲まれた泉でアーチェは水中に身体を沈める。鼻歌を歌いながら清らかな水に浸かり、心身ともに安らいでいる純白の乙女。
アーチェの鼻歌に合わせて小鳥のさえずりと木々のざわめきが合わさる。それだけで大自然のコンサート会場のような、そんな不思議で素敵な空間が誕生した。
――♬~♫~♬~♪。
純粋な心を表すような真っ白な髪。心地良さそうに細められている金の瞳。透き通るように白い肌は肩先より下を泉の中に沈めている。
清廉な少女の周りでは、女神の存在を歓迎するかのように、色とりどりの魚たちがぐるぐると円を描くように水中を舞う。
幻想的な空間の中央で、鼻歌交じりに水浴びをする女神アーチェ。彼女の機嫌はとてもいいようで、薄く赤らむ頬は緩められている。
『アーチェよ……ずいぶんと機嫌がいいようだが、そんなにただの水に浸かるのが好きなのか?』
少女にそう疑問をぶつける声の持ち主の黒竜はどこにも見当たらない。ラグーナは現在、アーチェの『神力』を回復させるために漆黒の宝石へと姿を変えていた。
泉で水浴びをするアーチェが現在、唯一身に着けているのは漆黒の金剛石がついた首飾りでその宝石部分は水中にあるためぱっと見では確認できないのだった。
ラグーナのそんな疑問にアーチェは上機嫌で返す。
「そりゃあ好きに決まってるよ。『神気』を使えば身体は清められるけど、心の内側までは癒されないんだから!」
泉の女神はそう答えると、両手で透き通る水をすくった。頬を赤らめ、うっとりとした表情で両手の水を見つめる。その顔はまるで恋する乙女のようだった。
アーチェは「それに」と、言葉を続ける。
「せっかくの地上の旅なんだし、この世界を全身で感じたいじゃない。こうして泉に浸かっていると、水の冷たさが私に生きてるんだってことを教えてくれてるみたいだし、地上の世界に私は存在してるんだってことを肌を通して実感させてくれるの♪」
自分の想いを吐きだした夢みる乙女は「私が世界を思って世界も私を思ってくれる……これって相思相愛!?」そんなお花畑を頭の中で想像し、思い描く。
――――その意思を汲み取ったかのように、周囲の空間に色とりどりの幻想的な花々が漂い始める。
ゲーミングな空間もびっくりするような神秘的な空間が、女神の妄想によって誕生した。
虹の花が浮かぶ幻想的な景色を少女の視界を通して見る宝石と化した竜。
水に浸かるということについての疑問への返答がここまでの現象を引き起こすと思っていなかったラグーナは『う、うむ……そうか……』と動揺するように呟く。
それと同時にやはりアーチェといると退屈しないと、そう思うラグーナ。純粋な心を持つ女神アーチェ。その視界を共有して見る世界はとても美しかった――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます