第10話 勇気ある者と絶対的な強者
陽光を遮る薄暗い森の中。一人の男と一匹の熊が睨み合っていた。
リヒトは手に持った石を魔獣に目掛けて投げつける。ビュンッと鋭い音を立ててそれは突き進む。
魔獣はリヒトに意識を向けており、その攻撃を横に回避する。しかし、石が魔獣を逃がさない。魔獣の動きを追跡した石がガンッと音を立て魔石に激突する石。
――――魔石にヒビが入る。
「グガァァァァァァァッ!!」
魔獣は我を忘れるような痛みに叫び、激しく悶える。再び石を持つリヒトを見て、魔獣は遠距離は不利と判断したのか、物凄い勢いで走り出す。
それを見たリヒトも石斧を手に持ち、回り込むように走り出す。その速さは常人の速さを越えていた。大地がリヒトに『力』を与えていた。
「うぉおぉおぉぉぉっ!!」
雄叫びを上げ、魔獣に接近していくリヒト。その瞳は勇気と覚悟の輝きを宿している。
接近するリヒトと魔獣。彼は、死を纏う魔獣の爪を回避すると石斧で後ろ足を切りつける。
――ガンッ。
(ッ、硬いっ!)
リヒトは心の中で舌打ちをした。魔獣の身体は強靭な体毛に守られているようで、傷つけることはできなかった。
(ならばっ!!)
同じ箇所を何度も何度も攻撃し続ける。魔獣の攻撃を受けることもあったが、本来なら致命傷となる一撃でも、ビリッとする痛みだけで耐えられた。
「グガァッ!?」
一進一退の攻防が続くなか、魔獣の身体が少し崩れる。驚いた魔獣は声を上げる。
「ウオオオッラァァッ!!」
そこを見逃すリヒトではない。石斧を大きく振り上げ、渾身の力で魔獣の額、禍々しい色の魔石に目掛けて強く振り下ろす。
――――バリィンッ!。
強烈な一撃を受けた魔石は高い音を響かせ、砕け散った。熊の魔獣はズズゥゥンッという衝撃と共にその巨体を地面に沈めた。
「はぁ、ハァッ……やった……のか……?」
リヒトは自分でも信じられない思いだった。自分の何倍もある大きさの怪物を打ち倒したのだから。本来であれは恐怖で動くことすらできないであろう強者に勝ったのだから。
呼吸を整えながら、魔獣の様子を見る。
――突如。
魔獣の身体がビクンと動く。粉々のだった魔石がどす黒い光を放ち、熊の身体に吸収されていく。
徐々に、魔獣が身体を起こす。その黒い身体には赤黒い模様が浮き出ていた。目は白目で、理性を感じさせない。
「まじかよ……」
そんな魔獣の姿を困惑の瞳でリヒトは見つめる。強靭な体毛に覆われた熊。
(明らかにさっきよりヤバそうだ……。同じ部位への攻撃は……無理だな。狙うなら口から脳を切り裂く。それしかない!)
リヒトは再び『覚悟』を決める。決死の覚悟を。深く深呼吸をする。そんな青年の頭の中にふと純白の少女の笑みが脳裏に浮かぶ。
――――自分を救ってくれた女神の姿。
――――自分に勇気をくれた少女の姿。
アレを殺して死ぬのなら悪くない。そう思った。
「ウオオオオオォォォォッ!!!!」
リヒトは雄叫びを上げながら、魔獣めがけて走り出す。
「ガギャァアァアァァアァァッ!」
『欲』に支配された魔獣は、大きな口を開きながら突進する。
一人と一匹のぶつかり合う。
――――刹那。
リヒトの身体を『
漆黒の
――――ドゴォォォンッ
『破壊』の力を受けた魔獣は、それだけで死に至った。圧倒的な力の差。絶対的な強者の一撃により欲望に
リヒトは目の前の光景に絶句する。おとぎ話でしか知らない。本よりも、現実で目にするその姿は恐ろしく映った。
さっきの熊の魔獣ですら圧倒的な弱者だったと理解させられる。強者の姿があった。
リヒトの黄色い瞳に映るのは、漆黒の体躯を持つ絶対的な強者の姿。巨熊の倍の大きさはある黒竜がそこにいた――。
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