第7話 謝罪と奇跡
村の中央にある広場には、大勢の人がいた。人々の視線の先にいるのは、二人の人物。
一人はアーチェ。純白の髪色におさげの髪型の華奢な少女。そんな彼女は、清楚感溢れる真っ白なドレスに身を包んでいる。可憐な少女の持つ黄金の瞳。それは優しい光を宿していて、人々を見守っている。
もう一人はリヒト。焦げ茶色の髪に黄色の瞳。その瞳は揺るぎない光を
村人たちの集団。その先頭にいた人物は、二人のほうに近づく。
「リヒト。私がお前にした仕打ちは決して、許されることではない。しかし、謝罪をさせてほしい……」
村長は、ガバッと音がなるような勢いで頭を、否。土下座の姿勢をとる。
「本当に申し訳ない、すまなかった」
後ろにいた村人たちも村長に習い、同じ姿勢を取る。そして、それぞれが謝罪の言葉を述べた。
リヒトは、「皆さん、頭を上げてください」とハッキリとした声で言うと、そのまま言葉を続けた。
「確かに私はあの時、死んでいたかもしれない。想像を絶する苦痛と苦しみを味わいました。……死んでいたら、皆さんを死の世界で呪っていたかもしれない」
あったかもしれない、そんな世界線のことを思い浮かべるリヒト。しかし、一人の少女。一人の女神の存在によって彼の運命は変わった。世界の運命は変化した。
「でも、僕は生きています。ここにいる女神様が助けてくれました。彼女がここにいるのは奇跡なんでしょう……」
生きる選択をした青年は、命の恩人である純白の女神に視線を送る。女神アーチェはその視線を受けて優しく微笑む。
「でも、その奇跡のおかげで僕は今も生きています。だから僕は皆さんの謝罪を受け入れます。そして、許します」
自らの命を奪おうとした者たちを、自身の意思で許すリヒト。その黄色い瞳に宿る光は力強さを感じさせる。
「リヒト……本当にすまなかった」
顔を上げた村長と村人たちはもう一度、謝罪をした。女神アーチェはそんな人々の様子を見守っている。
「それに、皆さんが、食料を分けてくれたことを女神様に聞きました。それを女神様が料理してくださったのですが、とても美味しかったです。だから、許します」
リヒトは、そう言って笑った。
そんな中、一人だけ不服そうな人物がいた。
……アーチェだ。
「ねぇ、リヒト君。その女神様って言うのは、いつまで続けるのかな? アーチェでいいって言ったじゃん!」
腰に手を当て、頬を膨らませ桜色の唇を尖らせるその姿は、女神というよりは少女のような印象を感じさせる。
「うっ……ご、ごめんアーチェ……」
リヒトは、何も喋らないと思っていたアーチェが、急に言葉を発し、他の人たちがいる中で、呼び捨てを強要してきたことに、焦りの表情を浮かべる。
「あの……お、お二人はどのようなご関係で?」
村長の単純な疑問であった。村人であるリヒト。そして、女神であるアーチェ。二人が親しげな関係に見えたのだ。
「う~ん……精神で繋がった……関係かな?」
アーチェは少し考える仕草をすると頬を少し朱に染め、そう答えた。
「は、ははあぁあぁ」
それを聞いた村長を含めた村人たちは、跪くような姿勢になった。その姿はアーチェだけでなく、リヒトにも敬意を向けているようだ。
何かを勘違いされている。そうリヒトの直感が告げている。
「そ、村長。ご、誤解です。友人です。普通に友人なだけですからっ!」
青年は両手をぶんぶん振り、慌てて弁明しようとする。
「女神様とご友人……?」
さらに、村長や村人たちが跪くような姿勢になった。
その誤解を解くのに、かなり苦労したリヒトだったが、そこには村長や村人たちとすっかり打ち解けた姿があった。皆が笑い合う。
――そんな姿があった。
アーチェは思惑が成功したのか、笑い合う人々を見つめて「えへへっ」と微笑んだ――。
人々の穏やかな会話を環境音に、アーチェはこの村に残る次の問題を解決することにした。
一つは、雨不足による農作物の不作。もう一つは、森の異変。簡単に解決できる方から取りかかろう。そう思った想像の女神は『力』を
話し合っていた人々は、空気が変わるのを感じたのか、静かになる。そして、淡い光を纏う純白の女神、その姿に魅了されていた。
――『神意』。
それは、神の意志にして世界の常識を覆す、そんな神秘的な『力』。
――――目を閉じ、手を組み。深呼吸をする。
――――不要な思考を無にし、起こす現象を想像し、『想い』を具現化させる。
――天から恵みが地上に降りてくる。
ポツリ……ポツリと音を立てるそれは雨だ。世界の常識にとらわれない神の
人々は天を見上げる。そこには白い雲と青い空が広がっている。
「
ザァザァと降り出す雨。神の
気付くと人々は、笑いながら、空を見上げている。そして、その瞳からも雨の雫のような、涙がこぼれ落ちていた。
――――神の恩恵を浴びた大地は生命の力を取り戻すように淡い光を持つ。
――――空はこれからの村の未来を示すかのように、大きく綺麗な七色の虹を造り出していた。
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