第4話 創造神と終末の黒竜

 天界と呼ばれる神の世界。


 そんな天界にある泉を眺める二つの影があった。一つは創造神クリティシアス。もう一つは黒竜ラグナロクである。


「なぁクリティシアスよ、この泉は直接地上に繋がっているわけでは無かろう?」


 黒竜ラグナロクは長い首を伸ばして、金の瞳で泉を覗きこむ。

 

 地上世界を映す泉は、自然の緑、海や川の青、大地の茶色と鮮やかな色を映している。


「ああ、これは地上世界を映すためだけのものだ。しかし、現にアーチェの気配は天界から消失している。何が起きたのかは私にもわからん」


 眉間に皺を寄せたクリティシアスはここで、一体なにが起きたのかを思考する。

 

(『想像』の力は、想いを現実にする力がある。やろうと想えば地上に行くことも可能だろう。しかし、あのが私の話を無視して、自ら地上に行くとは考えられん)


 最後に聞いた悲鳴も、予想外の何かが起こったのであろう、と結論付けた。

 

 黒竜ラグナロクは閉じていた黒翼を大きく広げる。


――――バサリと音が鳴る。


「行くのか?」


 クリティシアスは思考を中断して、飛び立とうとするラグナロクを見る。


「うむ、我はあの子を守ると約束したのでな。それに……傍にいると退屈せずにすむ」


 そう語るラグナロクの黄金の瞳は、気力に満ち溢れている。


「……すまない、助かる。地上世界では私ですら予想していない何か、異変が起きてるかもしれん。向こうに行った後の対応はお前に任せる。最悪の場合はラグナロク。お前の『力』を使い世界を終わらせても構わん。あの娘が無事ならな」


 創造神は天界を離れることは滅多にできない。信頼できる。ながい時を生き、力を持つ彼が行くのであれば、むすめの心配はいらない。そうクリティシアスは判断した。


「ふんっ、地上世界の生き物など我にとって赤子も同然。『破壊』するまでも無かろう。そして、アーチェがそれを望まん」


 どんなことがあろうとラグナロクは自分自身の力を信じている。そして、その力でアーチェを守る。それだけのことだ。


「……そうか。『終末の黒竜』と呼ばれていたお前も、丸くなったものだな」


 クリティシアスはそんなラグナロクの様子を見て、フッと笑う。


「……我はあの戦争以降、壊す以外の強さがあるということを知ったのだ」


 ラグナロクは、闇に染まる空のような、大きな翼を『神気』で満たしていく。

 

――――『力』の満ちていく翼。

――――『力』の光は凝縮していく。

――――『力』の凝縮された血液が血管に流れる。

 

 黒い翼に模様が広がる光景は、複雑な魔法陣のようにも見える。


 一人の神を巡って起きた争い。そして、多くの神たちが消えることになった『神々の戦い』。

 その戦争に終止符を打った『終末の黒竜』ラグナロクは、いま地上世界へと飛び立つ。


――――託された想いを『守る』為に。

――――愛するものを『護る』為に。

 

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