腕を切る前の覚書
ゆきのつき
腕を切る前の覚書
どうやら私は自分のために生きていないみたいで
外側のなにかをエネルギーに生きていたらしい
くるしくなると小さく自分を切り離し
幽体離脱をするみたいに、自分からじぶんを抜き出して
自分を攻撃したり、他者を攻撃したり
自分を削ったり、食べ物を吐き出したりする私は
豊かに自分のために生きるというイメージができない。
「ひとの役に立ちたいです」
と10人中7人ぐらいが言っていた大学時代。
精神医学の講義では、後ろ半分は寝るかスマホで映画を観ていた。
映画は自分のためか?
彼らの方がよっぽど、私より人を救えると思ってならない。
気づいたらなにかとたたかっていて、
気づいたらあの人のことが気になっていて、
気づいたらあの人がいないと生きていけない身体になっていた。
その中で喜びや安らぎを感じても、
それは哺乳瓶に入った生温かいミルクを飲んでいるようで
オムライスを作ってもそれは児童館でやるままごとのようだった。
いま、ノートの横にかみそりを置いて、これを書いている。
腕を切ってしまう前に、ちょっとでもよどみをきれいにしようと、
あがいているのだろう。
ちょっと高かった重量のあるキャンドルも、寝る前の書く行為も
きっとこれは自分のためだ。
ドロドロと液体が混ざり合うみたいに依存しあっていたあの人を
思い出さないときはない。
ふとしたとき、あの人にまた会うために生きているんじゃないかと思ってしまいそうになる。
でも、もうあの人と同じ部屋で寝たいと思ってはいない。
ひとりでカフェに入ることには、もうとっくに慣れてしまった。
腕を切る前の覚書 ゆきのつき @yukinokodayo
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