【1話完結】馬鹿父

架流さん💤

1話にして最終話

父は海が好きだった。大好きだった。事あるごとに海に行き、夏なんか3日に1回は海に行っていた。しかし、職業は公務員。しかも教師だ。理由を聞くと、「いつも行ってると飽きてくるだろ、それが嫌なんだよ。」という。わかったようなわからないような…


そんな父と母と3人で俺たちは沖縄旅行に行った。父は「やっぱシュノーケルの体験をさせてあげたい」と言うし、母は「美ら海水族館とか、国際通りとか行きたいじゃん」って言っていて、ニ泊三日にしてはなかなかパンパンのスケジュールになっていた。


気がかりなこともあった。台風3号が今のままだと最終日に沖縄にかかるのだ。運が悪ければ飛行機が飛ばない、そういうことも想定して予定を立てた。


【1日目】

飛行機で飛び立ち、シュノーケリングの体験と海遊びが終わった。泳ぎが苦手な母も簡単にできるようにガイドの人が手助けしてくれていた。母も満足そうで、俺も満足だ。けど、シュノーケルのあとに砂浜で遊ぶと何か物足りなかった。


今の調子だと台風は台湾の方にそれるそうだ。よかった。一安心だ。


【2日目】

美ら海水族館と国際通りに行ってきた。

美ら海水族館の中にいるときに外は大嵐になっていたみたいだが、出たら太陽が見えていた。いい天気だった。母は、ジンベイザメの抱き枕を買っていた。いや、今何歳だよ…


国際通りに行ったときに、雨がポツポツ降ってきた。だから、横の屋根がある道に行ってみた。大きな音が聞こえたので振り返ると、ずぶ濡れになりそうな雨が降っていた。しかもいい服を見つけた。幸運だった。


風が強くなっていて、体感で8mぐらいだと思う。


美ら海水族館から国際通りに行く最中に、父が「海が見たい!」と言って聞かなかったので海に寄った。父はいつの間にか足だけ海に浸かってた。


【3日目】

ついに最終日だ。朝、スマホを見たら波浪警報が出ていた。風も13〜6mになっていた。いかにも「台風!」って感じで今日は屋内のところに行く、と決まった。


「海ぶどう食べよう!」母が提案した。1日目の夜ご飯に海ぶどうのサラダがあったから味はわかる。めっちゃうまい。


車で三十分。海ぶどうすくいができるというところに来た。なんでも、海ぶどうを金魚みたいにすくう体験ができるそうだ。んな馬鹿な―――……


まさかの本当だった。流れのある水槽の中にポイを突っ込んでたくさん取った。父だけ少ししか取れなかったが、施設の人が「内緒ですよ!」とか言いながらすごい量プラスしてくれた。優しい。


終わって、帰ろうとしてるときに父が「目の前の海に行こう!」とか言い出して先に行ってしまった。まぁ、波浪警報はでているけど、波から離れてるなら良いだろう。しかも太陽見えてるし。


というわけで来た――――――――…………父が海に入っている。あんだけ言ったのに。馬鹿…なのかな?警報でてるよ?馬鹿だね。


「おとーさん!帰ってきて!警報でてるんやで!」


遠浅だからか結構遠くの方まで行ってしまってる。だから聞こえないみたいだ。電話しても風の音のせいか出なかった。入り江だからか波が他のところより高かった。


あと、何か嫌な予感がする。


「まぁ、あのお父さんだから危なくなったら帰ってくるでしょ」


母は楽観的だった。普段なら俺もそう考えるが、本当に嫌な予感がする。そんな楽観的になるなんて無理無理。


プルルルル…プルルルル…プルルルル…プルルルル………電波の届かない場所にいるか ブチッ…………


プルルルル…プルルルル…プルルルル…プルルルル………電ぱ ブチッ…………


プルルルル…プルルルル…プルルルル…プルルルル………電波の届 ブチッ…………


でてくれ。頼む。波はどんどん強くなってる。


プルルルル…プルル…「もしもし、ごめんごめん聞こえてなかった。何?」


よかった。出てくれた。


「お父さん、警報でてるから帰っ…お、おとーさんっ!後ろっ!逃げてっ!」


「えっ!」


ザバーン、ごろごジャリごろごろ…ブチッ…ツーツーツー


「きゃあ!」


「おとーさん!おとーさん!」


やめてくれ。悪い冗談だよな。お願いだからでてきてくれ。帰ってきて「おっきな波にのまれて死ぬかと思った…」とか言ってくれ。お願いだから………





結果として父は帰らなかった。

心も、体も。



        ※


波にのまれたまま沖に流されたらしく、父の遺体は帰ってこなかった。しかも、親族の中には「自業自得じゃない?」とか言う感じ悪い人もいる。俺も思うけど!口に出さなくてよくない?


お金の心配はなかった。父の貯金と遺族年金のお陰で大学を出るまではもつようになっていた。こればかりは父に感謝だ。


しかし、俺と母の二人だけの生活は暗かった。父がいなくなったことで父がどんだけ楽しくなるように場を回していたかがよく分かった。皮肉な話だ。しかしお葬式のときも含めて、俺は泣けなかった。


俺は不登校になった。母も籠りがちになった。時間だけは腐るほどあった。


こもり続けて1週間、吹っ切れるために俺達は二人で父の荷物の整理をした。


ひたすら無言でいる物の整理をしたり片付けをしたりすること9日間。


下着ボックスの靴下入れの下から父の遺書らしき封筒とかわいい花がらの封筒がでてきた。涙が込み上げてきた。その封筒には、立ち会いの弁護士の住所と電話番号の書かれた付箋も貼ってあった。




大切な大切な家族へ。


この封筒を開けるということは俺は何かの事故で死んだのか、植物状態にでもなったんだろ?

事故だったら、俺のことだから海の事故か?交通事故だったりしたら嫌だな。痛いじゃんか!

脳卒中とかでも嫌やわ。

やっぱり死ぬのは老衰がええわ。けどこれを読んでるってことは老衰ではないってことか…

海に行くことに特に意味はないで。お父さんのおじいちゃんが釣りが好きで昔はそれについてって帰りに海に行ってたんや。それで好きになったってだけだから俺が海で死んだなら「死んだ理由を解明する!」とか言って海で死んだりせんといてや。

俺が死んでも長生きしてくれよ!そのためにお金は貯めた。ちょっと足りんかったらバイトでまかなってくれ。多分足りると思うが。


新しい旦那さんは………いい人がいたら作っていいわ。許可してしんぜよう!!!


まぁ、軽いノリで書いたから本当に死んだときにどうなるかしらんけど読ませたくなくなったらビリビリに破いて捨てるわ。


ばいばーい!

         父


はぁ―――…………

やっぱり父は馬鹿だと思った。


とりあえず生きよう。うん。俺の死因にこんなしょうもないのは嫌。あーあ、馬鹿馬鹿しくなってきた。とりあえず学校に行くか。


馬鹿な父の話はこれで終わりにしたいと思う。読んでくれてありがとう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【1話完結】馬鹿父 架流さん💤 @Povo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ