手紙
白井茄子
手紙
私がまだ小学2年生の頃の話です。
私は当時、勉強もせずに近所に住む友達と毎日遊び回っていました。公園や体育館など、子どもが行く定番のスポットは飽きてしまったため、近所の公民館に行くことにしました。
田舎の公民館なので、受付の人以外はほとんど誰もおらずシン……としていたのを覚えています。ほのかに香るカビの匂いが、人の出入りが少ないことを証明していました。
公民館の中には子供向けの小さな読書コーナーがあり、数は少ないですが絵本などが置いてありました。予算がなかったのでしょうか、どれも古めの本でした。
私と友達はその読書コーナーで本を読むことにしました。タイトルを見て、面白そうだと思った本を棚から引き抜き、友達と並んで読み始めました。
しかし、私は毎日外で鬼ごっこなんかをしているタイプの子供だったため、読書に集中できずすぐに飽きてしまいました。パラパラと本をめくってみると、おかしなものが挟まっているのに気がつきました。
それは真っ白な封筒に入った手紙でした。
宛名は書かれておらず、封もしてありません。
私は友達に
「何かあった」
と言い、封筒から手紙を取り出し読み始めました。
内容は、漢字が多く、7歳の頃の私にはよくわかりませんでした。私はその手紙がなんとなく気になり、こっそりと家に持って帰ることにしました。
自分の学習机の引き出しの中にしまいこみ、たまに取り出しては眺めていました。
筆跡的に書いたのは女性だと思います。好きな人に向けたラブレターかなと空想し、まだ見ぬ大人の世界へ憧れを抱きました。私は、初めて親に対する秘密ができたみたいでドキドキしていました。
しかし1年後、その手紙が忽然と姿を消しました。私は机中を全てひっくり返して探しました。ゴミ箱も、ランドセルの中も、可能性がある場所は全て探しましたが見つかりませんでした。
親に捨てられてしまったのでしょうか。
私は徐々にその手紙の存在を忘れ、中学、高校と進学し、大人になりました。
私は東京で一人暮らしを始めました。
仕事はとても大変でした。1人に割り振られる仕事量が多いため終電にも間に合わず、職場に泊まることも少なくありませんでした。寝不足の中仕事をしているため頭がぼーっとしミスも多く、上司に毎日怒鳴られていました。そしてそんな私に対する同僚の目もとても冷たく、私は孤立していきました。
今思うと典型的なブラック企業だったと思います。
私の心は段々と削られ、生きることが辛く感じるようになりました。
ある日珍しく早めに家に帰ることができました。私はコンビニでお弁当とお茶を買い、鍵を開け6畳の自宅へ入りました。
ふと、家の郵便受けに何か入っているのに気がつきました。
それは宛名の無い白い封筒でした。
7歳の時の記憶が一気に蘇りました。どうしてあの時の手紙がここにあるのか、私は不気味に思いました。しかし一方で、あの時漢字が多くて読めなかった内容が今ならわかるかもしれないと思いました。
私は、封筒から手紙を取り出し読み始めました。
それは遺書でした。
手紙には、毎日が辛いこと、上司に職場で毎日怒られ、もう生きている意味がわからなくなったことなどが書き綴られていました。
私は読みながら涙を流しました。内容があまりにも自分の境遇とそっくりだったからです。私は手紙に深く共感しました。
そして、気がついたら自分もこの手紙を書いた人のように人生から解放されたいと考えるようになっていました。
仕事中も、ご飯を食べている時も、寝る前も、手紙の内容が頭から離れませんでした。
死が祝福として私に纏わりついていました。
だから、私はあの世へ行きます。
さっきロープを買って来ました。
この手紙を見つけたあなたにも、祝福があることを願っています。
この手紙が自殺した友人の部屋から出て来たものです。筆跡的に、間違いなく友人が書いたものなんですけど、わたし思うんです。
7歳の時、友人が本の中から見つけた手紙って、この遺書なんじゃないかって。
だってこの遺書、宛名の無い白い封筒に入っていたんです。
手紙 白井茄子 @shironasu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます