成長と時間

モトミヤ ヒロ

時間と成長

 私は、猫を飼ったことがない。そのため、猫との接点は少ない人生である。唯一挙げるとすれば、「祖父母が飼っていた猫」だ。名前はレオ、品種はペルシャである。


 幼少期の私は、犬や猫といった動物が苦手だった。理由は、急に走り出したり、突然吠えたり、こちらが予測できない行動をするからだ。レオは落ち着いた子であったが、幼い私にとっては、恐怖の対象であり、お盆やお正月、祖父母の家に行くときは、レオの存在が私の不安要素であった。祖父母には会いたいけれど、猫は怖い。お小遣いは欲しいけれど、猫は怖い。このような気持ちの葛藤をしながら、一年に三回ほど、レオと顔を合わせていた。実際、レオに会うと「怖い」という気持ちと同じくらいに「かわいい」と感じていた。しかし、自分から近づくことや体に触れることは決してなかった。


 月日は流れ、私は高校生になった。心も体も成長した私は、街で散歩をしている犬とすれ違っても、穏やかな心でいられるほどに動物への苦手意識がなくなっていた。高校生になり、学業が忙しくなったことで祖父母の家に行く回数は少なくなった。つまり、レオと会う回数も減少していた。その年のお正月、動物を克服した私に、レオとの対面の機会が遂に訪れた。祖父母の家に入ると、いつも通り、窓際にレオが座っている。動物が苦手ではなくなったとはいえ、積極的に近づくほどではない。私は、レオが近づいてくるのを待っていた。そんな日に限って、レオは来なかった。「次来たときは、絶対に触れてやる」という想いを胸に、その日は帰った。


 次に、祖父母の家に訪れたのは大学生になってからだ。コロナや受験など、様々な事情が重なり、かなりの期間が空いた。家に入ると、いつもの場所にレオがいない。どこに行ったのか尋ねると、一か月ほど前に天国に行ったそうだ。私がレオに触れることは一度もなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

成長と時間 モトミヤ ヒロ @kosumo55

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ