第3話

 月曜日、一応高校生なので俺は学校に行く。不登校になって社会のレールから外れたくはないから。週5の疲れが週2で取れる訳がないじゃないかと思いながら。

「おはよう、佐藤君」

「鈴木か、おはよう」

 鈴木初音、中学の頃から知り合いだ。中学からずっと同じクラスになっている。

「それにしても高二でも同じクラスになるとは。まるで運命の相手みたいだな」

 俺がそう言うと鈴木は顔を朱色に染める。

「佐藤君! 何、朝から言ってるの!」

「悪かったよ。でも、鈴木が同じクラスで良かった」

「え?」

「寝ていてもノート、写させて貰えるからな」

 次の瞬間、ノートで思い切り頭を叩かれた。

「痛いぞ」

「自業自得です!」

 流石、鈴木。からかいがいがあるな。そう思っていると鈴木が俺の後ろを指差す。

「あの、佐藤君。後ろにいる金髪の子は誰ですか?」

 そう言われて振り返るとそこには悪戯がバレてしまった子供のような顔をした有栖川が立っていた。

「おい、なんでお前がここにいるんだよ」

「だって、雄馬の家にいても暇なんだもん!」

「……雄馬の家?」

 俺たちの会話が聞こえた鈴木は後ろにひっくり返る。

「大丈夫か、鈴木?」

「大丈夫だよ」

 鈴木はすぐに起き上がる。

「それより、金髪の子の説明をお願いしても良いかな?」

 鈴木の目は今までで見た中で一番本気だった。


 一限の授業をサボった俺たちは屋上にいる。教師にもこれくらいは許して欲しいと思う。だって、週5の疲れが週2で癒せる訳がないのだから。

「それで、有栖川さんはなぜ佐藤君のお家に?」

 鈴木が質問すると有栖川が涙を拭くような仕草をして言う。

「雄馬が強引に、俺の家に来いって」

「おい、それだと俺が犯罪者みたいじゃないか」

 元はと言えば、有栖川がコンビニで犯罪紛いのことをしていなければ会うこともなかったのだから責任は有栖川にあるはずだ。

「と言うのは冗談で、雄馬はとても面白いから一緒に住んであげているの」

 なんで居候のくせに上から目線なんだよ。そう思っていると屋上に声が響き渡る。

「そ、そんなの破廉恥です!」

 慌てる鈴木に俺は首を傾げる。

「悪いが、鈴木が思っているような関係ではないぞ」

「ぜ、全然! そんなこと考えてないですから!」

 どうやら誤解されているようだ。それなら仕方ない。誤解を解くという労力をかけるのは面倒なのでそのままにしておく。特に支障はないからな。

「それで、有栖川は帰る気は……」

「ない!」

 やはりな。

「なあ、有栖川。お前がやっていることはチケット代も払っていないのに夢の国に入場しているようなものだ。わかるな?」

「それはいけないことね」

 よし、物分かりは良いみたいだ。

「じゃあ、自分がどうしないといけないのかわかるよな?」

「入園料を払う?」

「間違ってはいないがもっと違う最善の策があるだろ!」

 自分の元いた世界に戻って主人公の兎と甘い恋愛をする。これ以外に彼女の幸せはない。

「雄馬は私といたくないの?」

 ウルウルとした目で上目遣いをする有栖川。

 だから、上目遣いで俺を見るな。好きになっちゃうだろうが。

「いたい、いたくないの問題ではない。有栖川はこの世界にいるべきではないんだ」

 少し、突き放してしまう言い方だが事実だから仕方ない。彼女には彼女の生きる世界がある。そこに戻すのが俺の役割のはずだ。

「あの、さっきから思ったんだけど有栖川さんって」

 まずい、有栖川の正体が鈴木にバレてしまう。

「どこかの国の王女様?」

「え?」

「だって、綺麗なお顔をしているし、普通の高校生ではないなって。違う?」

「そ、そうなんだよ。こいつ、高校生活を体験してみたいって国から抜けて出してきて」

 俺がそう言うと手を叩き、鈴木は感動する。

「やっぱり! でも、そうなら佐藤君がきちんと面倒を見ないと駄目だよ。それに、あまり長い期間、一緒にいるのはちょっと……」

 言葉尻が聞こえないので俺が首を傾げると鈴木は赤い顔をしてブンブンと首を横にふる。

 それを見た有栖川は俺に耳打ちする。

「ねえ、雄馬。鈴ちゃんは雄馬が好きなんじゃないの?」

 さっき知り合ったばかりなのに変なあだ名をつけるとは流石は有栖川、イカれてやがる。ライトノベルを読んでいなかったら驚くだろうが、俺は彼女を知っている男なので驚きはしない。

「そんな訳ないだろ」

「そうなの? お似合いだと思うのに」

「勝手なことしておいて、勝手なことまで言うなよ」

「私を自分勝手みたいに言わないでよ!」

「どこからどう見ても自分勝手だろ」

「わかったわ雄馬。屋上と言えば喧嘩、受けて立ちなさい」

「何もわかってないようだな、馬鹿女」

 俺たちの様子を少し離れたところから見ていた鈴木が

「二人はとても仲良しなんだね」と言ったので全力で否定した。

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ライトノベルのヒロインに好かれております。 楠木祐 @kusunokitasuku

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