第4話 違和感

 クラスは球技大会の話題で盛り上がっていた。黒板に副ホームルーム長の女子が多数決を取るための競技を白のチョークで書いていく。屋外では野球、サッカー、テニス。屋内はバスケ、バレー、卓球があった。

「やっぱりバスケだろ。掛橋もいることだし」

 一人の男子がそう言って掛橋を見る。掛橋は聞いていなかったのか「そうだな」と言って適当に相槌を打つ。その反応が僕は少し引っかかった。

「じゃあ私もバスケやりたい!」

 ビシッと手を挙げて美月が発言する。

「これから多数決取るから慌てないで。それに、男女で同じ競技は選べないよ」

 ホームルーム長の眼鏡をかけた男子に注意されて大人しくなる美月。俯いた彼女を後ろの席から見ていると笑いそうになった。

 多数決の結果、男子はバスケ。女子がバレーに決まった。バスケに決まったのに掛橋の表情は暗かった。

 放課後、部活に行こうとしていた掛橋に僕は声を掛ける。

「元気ないように見えるけど体調が悪いのか?」

「そうか?」

「僕にはそう見えただけの話だから違うなら別に良い」

「平気だよ。心配してくれてありがとな」

 掛橋はそう言って部活に向かった。僕はそんな彼の背中を見送ってから美月と帰路についた。


「掛橋、元気なかったね」

「そうだな」

「本当はバスケしたくなかったのかな?」

「それはないんじゃないか」

「その心は?」

「あいつはバスケがないと死ぬくらいバスケ馬鹿だから」

「確かにそうだね」

 それでも掛橋のことは引っかかる。なぜ、種目がバスケと決まったのに浮かない顔だったのか。流石のバスケ馬鹿も部活以外ではやりたくないということなのだろうか。

「まあ、優也は掛橋の心配より自分の心配をしないとね」

「なんで?」

「だって優也、運動苦手じゃん。足引っ張りたくなかったら練習しないと」

「ただの球技大会だぞ」

「球技大会は高校生にとってビッグイベントだよ」

「絶対違うだろ」

「良いから、私が練習相手になってあげるから」

「遠慮したいわ」

「強制です」

「マジかよ」


 それから僕は美月と学校近くの公園でバスケの練習をする。公園内にはバスケのゴールがある。幸い、公園内には僕たち以外いないので人目を気にせず練習ができる。

「腰高いよー」

「うるさい」

 素人なのにヤジを飛ばしてくる美月に僕はボールを投げる。

「おっと」

 僕の投げたボールを難なくキャッチして得意げに指でボールを回す美月。

「はい、次。レイアップシュートね」

 そう言ってボールを渡される。

 僕は美月に言われた通りレイアップ的な何かを披露する。テンポも足の運びも上手くいかない。それを見た美月はニヤッと笑う。

「やはり練習が必要でしたな」

「練習しても意味ないだろ」

 活躍するのはバスケ部で、僕はゴール前で突っ立っていれば良い。時間なんてすぐに来るのだから頑張って怪我でもしたら大変だ。

「優也は本当に後ろ向きだね。今を全力で生きないと後悔するよ」

 美月の言葉に僕は一瞬戸惑ってから苦笑する。

「今から全力で生きていたら疲れるだろ」

「その疲れが青春って奴ですぜ、旦那」

「誰が旦那だ」

 僕は美月の頭に優しくチョップする。

「痛いよ」

「軽くやったから痛くないだろ」

「心が痛いよ」

「意味がわからない」

 美月はクスッと笑って口を開く。

「優也が球技大会で活躍したら私にできることならなんでもしてあげるよ」

 なんでもって本当になんでも良いのかと思いながら僕は美月の顔を見る。

「なんでも良いよ」

 ふわりと包み込むように美月は笑って僕に言った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る