3
巣の状況は悪化の一途をたどっていた。幼虫たちの衰弱死は止まらず、そればかりか、働きアリの間でも、病による衰弱死が深刻な状況にあった。雄アリたちの対策は焼け石に水というもので、増えすぎた保菌者の前には、無意味な抵抗となってしまっていた。その影響もあってか、私の隠れ場所には、病に侵された大勢の死にかけたアリが押し寄せては、全てのアリが例外なく死んでいった。元々この場所にいた比較的健康だった数匹のアリも、押し寄せた感染者たちから病をもらい、死んだ。しかし、不思議なことに、私が病に侵されることはなかった。また悪運が訪れてしまったらしい。思えば私は、初めに巣から飛び出した時点で、死ぬべきだったのだ。しかし、死に損ねた。その先で私は大罪を犯して、こんな老体になるまで、ひどく卑しく生き残ってしまった。ああ、そんな私の死を受け入れる場所などどこにあるだろうか!私は嘆くことしかできなかったし、そうしないではいられなかった。
数日後、だと思う。いや、十数日かもしれないし、数十日も経っているかもしれない。太陽とも月とも無縁な、ただ時が過ぎるのを待つだけの私には、日にちの感覚などわからなくなっているのだ。私の隠れ場所は、ここ最近あまりにも静かだ。どうやらこの巣にはもう、ほとんどアリが残っていないらしい。病に倒れたアリたちの苦しむ声も、巣を駆け回る足音も、全てが消え去った静寂の中で、私は巣の奥深くで、ひっそりと佇んでいた。周囲に広がる死体の海は、巣の滅亡が迫っていることを告げるようだった。私はこの地獄のような光景を惰性で見つめながら、自分の死に場所について考えていた。この巣と共に死ぬことは、私の本能が否定する。私はこの巣から命を預かったわけではない。私の本能が求める死に場所は以前の巣だ。この命は、あの巣に帰らなくてはいけなかったはずなのだ。しかし、あの巣は私の死に場所となることを拒絶するだろう。私の命は、長い時間をかけて、穢れきってしまった。
ある夜、私は巣の外に出る決意をした。巣の中で死を迎えることが耐えられなかったのだ。病に侵され、白い斑点が見られる蟻の死体の山を抜け、出口に向かって歩いた。まるでよそ者の私を炙り出すかのように、私以外の全てのアリが病に侵され、白い斑点模様をつけ、死んでいた。やはりこの巣も私を受け入れないのだと、強く感じた。
外の世界は冷たく、静かだった。月の光は地面を薄く照らしていて、私はここでは存在を否定されていないように思えた。私はよろよろと歩きながら、自分の過去を振り返った。無能な働きアリとしての自分、そして新しい巣での成功と大罪。何度考えても、自分は何のために生きてきたのか、答えが見つかることはなかった。
ふと気がつくと、私は蟻地獄の巣穴の前に立っていた。見慣れない形状の穴が地面に開いていて、その中から声が聞こえた。
「お前みたいな年老いたアリは初めて見た。」
私は地面の穴を見つめながら、自分の終着点は、このウスバカゲロウの幼虫に喰われることなのだと悟った。体はもう限界だった。足は震え、呼吸は浅く、ただ穴の中に飲み込まれていくしかなかった。そうして砂に飲み込まれ、大きな牙が私の頭と胸のちょうど間の部分を噛みちぎった。
ウスバカゲロウの幼虫は、数度アリを咀嚼し、つぶやいた。
「ひどい味だ。」
ウスバカゲロウの幼虫は、年老いたアリを吐き出した。
おしまい
アリジゴク あごたん @ILOVECATS
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