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 あの日から長い時が流れた。この巣の規模は前の巣と同じくらいか、それ以上になっていて、アリたちは組織として成熟していた。しかし、最盛期を迎えた巣とは裏腹に、私の仕事のパフォーマンスは落ちていく一方であった。どうやら、私の寿命はそう長くないようだ。それもそのはずで、私はこの巣の全てのアリよりも、だいぶ早くに生まれている。私の身体はもう、衰えていく一方なのだろう。ああ、本来であれば、我が巣と栄枯盛衰を共にして、働きアリとしての役目を終えるはずだった。しかし私は本来正しい死に場所であった巣から逃げ出したばかりでなく、あろうことか同胞を殺し、巣から与えられた命の潔白を真っ黒に染め上げてしまったのだ。


 いつものように卵と幼虫の世話をするために子育て部屋へ向かっていたところ、大勢のアリがいつもと違う様子で、狭い通路を騒がしく走り回っていた。ただごとではないと肌で感じた私は、呆気に取られながら、近くにいたアリに何が起こったのか尋ねた。

「一体、何が起こったというのだ?」

するとそのアリは、困惑した様子でこう答えた。

「私も詳しくは知らないのだけれど、どうやら幼虫が大量に衰弱死してしまっているようなの。」

衰弱死?食糧は十分にあるはずだし、我々はそれを休むことなく幼虫に与えていたはずだ。それなのに衰弱死とは一体何が原因なのであろうか。私の疑問を察したようにそのアリは続けた。

「病が原因だって噂では聞いたわ。それで今、雄アリが病の感染源を調査しているところだって。かわいそうな話だけど、体が悪そうなアリは無理やり巣の外に追い出されてしまうみたいよ。」

これは恐るべきことだ。誰も私の秘密を、老化による体の痛み、衰えを知らない。つまり私は、この巣のアリたちから、原因不明の恐るべき病の保菌者であるかのように見られてしまうのではないか。突如始まった魔女狩りを恐れた私は、どこか安全な隠れ場所はないかと巣の中を走り回った。


 とにかく人気のない方へ、静かな方へと進んでいくと、今にも天井の土が崩れそうな、ボロボロの部屋にたどり着いた。そこでは、数匹のアリたちが抜け殻のようにぼーっと、ただそこで静かに呼吸をしていて、とても働きアリとは呼べない風体をしていた。どうやらこの部屋は、働けないアリや、死にかけのアリが集まる場所らしい。私はそのボロボロの部屋の奥に隠れ、息をひそめた。そこで目にした光景は、まるで自分の過去を映す鏡のようだった。巣社会から溢れたアリたちが、居場所を失い、申し訳なさそうに息をしながら、ただ死なないから生きているだけ、というような様子で時が過ぎるのを待っている。それはまさに、かつての私が感じていた、私を狂わせ、巣から飛び出させた息苦しさそのものだった。

「こんなところへ、いったい何のために?」

一匹の足の本数が少ないアリが、終わりかけの線香花火のような、物悲しく弱々しい声で私に声をかけた。私の方まで歩いてくるような素振りこそ見せたが、どうやらその足ではそれは困難なようで、顔を顰めた後、その場で横になってしまった。私はそのアリのそばまで歩いて、答えた。

「ただ少し休みたかっただけです。」

しかし、そのアリからの返答はなかった。

 

 私はその日から、この場所に隠れ、ひっそりと暮らすことに決めた。弱ったアリが迷い込んでは、数時間のうちに死んでいく光景にも、すぐに慣れてしまった。

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