バースデー当日
――バースデー当日
朝から、目まぐるしい一日だった。
特別に用意されたドレス、髪型、ネイル、ジュエリー。
それらを仕上げるたびに、鏡に映る自分が「主役」へと仕上がっていくのを実感する。
赤いシャンパンドレスは、深く艶やかで、身体に沿って品よく波打つ。
真紅のルージュがその気品に拍車をかけ、瞳には強さと艶が宿った。
(今日だけは、誰よりも輝いていなくちゃ。あの子に誇れる私であるために)
そう思いながら鏡の前で一つ深呼吸をした。
その瞬間、
「おーっ、相変わらず女王様って感じじゃん、赤姫。よっ」
「武士さん。来てくれたんですね、ありがとうございます」
「赤姫のバースデーだろ? 祝うに決まってるじゃん」
彼の登場を皮切りに、他の太客や経営者たちが次々と現れる。
私の為に、こんなに沢山の人が祝ってくれてる事が凄く嬉しかった。
ボトルタワーはあっという間に三本目。
会場全体が歓声とフラッシュに包まれる。
気づけば、その時点で5000万超え。
けれど私の心は騒がしさとは裏腹に、どこか空っぽだった。
(莉子……まだ、来ないのね)
あんなに張り切っていたのに。
あれほど強い瞳で「当たり前です」と言っていたのにね。
(まさか……来ない、なんてこと……)
客たちと笑顔で接しながらも、胸の内はざわついていた。
その時。
入口から風が流れ込むように、空気が変わり私の求めていた人が現れた。
莉子....
真っ直ぐな黒髪を艶やかに巻き上げ、派手めなアイシャドウが瞳を鋭く縁取っている。
誰もが振り返るほどの美しさ。
服は、白地に赤の花模様が咲き誇るドレス。
まるで今日の赤姫の“赤”に合わせたかのように。
(……私を意識して……?)
胸の奥がぎゅっと熱くなる。
莉子の歩みに合わせて、周囲の空気が静かにざわめき出す。
あまりに目を引くその美しさに、誰もが息を飲む。
でも莉子の視線は、ただひとつ。
赤姫である私だけに向けられていた。
(……もう、バカ。遅いじゃない……)
けれど怒る気にはなれなかった。
それよりも、ただ――嬉しくて、胸が高鳴った。
莉子が静かに席につくと、まわりの空気が再び活気づく。
そっと、彼女の耳元にささやく。
「遅れてきたくせに……派手な格好してるじゃない。....もしかして私に合わせたの?」
少しだけ挑発してやろうと思いニヤリと微笑むと莉子は柔らかく微笑んだ。
「当たり前じゃないですか。赤姫さんの隣に並ぶなら、目立たないと失礼でしょう?」
「ふふ……その心意気嫌いじゃないわ。凄く似合ってる綺麗よ」
「赤姫さんこそ凄く綺麗ですよ」
2人して褒めて2人して照れる。
バースデーだと言うのに盛り上がりに欠けるほのぼのとした会話。
(やっと来た……私だけの)
まだ夜は始まったばかり。
ここまで読んで頂きありがとうございます!
ここからの更新はゆっくりになります。
今は短編小説を色々と書いてみたいので応援お願いします!
貴方だけに貢ぐ私だけの愛 お嬢 @maymyo
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。貴方だけに貢ぐ私だけの愛の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます