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「おはようございますー」
「おはよー」
朝7時、僕はスーパー『クロマル』横浜磯子店に出勤する。
枕崎 商矢 28歳。独身。バツイチ。現在彼女無し。
バツが付いたのは、ちょうど1年前。
約2年間続いた結婚生活(※内1年は別居)は、自然にとっても綺麗な形で解消されたんだ。
出勤すると、僕はまずパソコンへ向かう。メールを確認。うん、今日は特別問題はなさそうだ。
「おはようございますー」
「おはよう!」
「おはようございますー」
「おはようさん」
「おはようございますー」
「あっ、チーフ。おはようございます」
次に僕は店内を回って食品部の面々に挨拶をする。
うちの店の従業員の平均年齢は、正直言ってかなり高い。ほとんどの方が60歳を超えている。少子高齢化が進んでいるから、当然と言えば当然な事なんだけど・・・・・・。ここだけ異次元レベルで進行速度が早い気がする。全く若い子は、入ってくる気配がない。
地域最安値の時給じゃ無理もないか。
食品部もみんなシルバー世代だが、幸いにも若い子にも負けないくらい良く働いてくれる。
ありがたい。
「おはようございますー」
「おはようございます」
三神さん、食品部の女性ベテランパートさん。クロマル歴は25年。この人も61歳だけど、動きはジョイナーレベル(古いか・・・・・・)
「チーフ、昨日は大丈夫でしたか?お茶の客注の件・・・・・・」
「ええ、なんとか。他のお店に借りられたのでなんとか対応出来ました」
「ああ、それは良かった。すみません、気をつけます」
三神さんは、サブチーフとして僕がいない時は他のパートさんをまとめてもらっている。
一通り挨拶が終わると、シフトを確認して自分の持ち場へ入る。パートさんは、それぞれが。
・和日配(※豆腐、納豆、漬物、練物、チルド麺など)。
・洋日配(※牛乳、ヨーグルト、チーズ、ピザ、デザートなど)
・パン(※インストアパン、NBパンなど)
・加工食品(※調味料、乾物、カップ麺、レトルト製品、ドリンクなど)
・冷凍食品(アイス含む)
・菓子(※洋菓子、和菓子、スナックなど)
担当が割り当てられていて、僕はその日に不足している所に入る。今日は洋日配だ。
「うおっ!」
驚いた。今日は、日曜でお客様は少ないのにカゴ車4台も納品が来ている・・・・・・。おかしい。嫌な予感がする。
カゴ車のカバーを上げると、積み上がるヨーグルトの山。しかも、これは売れないやつ。
やられた。
昨日の洋日配担当者の人為的な発注機の操作ミスが原因だ。
ただ大抵の場合の流れは確認不足、それから管理不行、そして最終的に担当チーフの責任となる。
やばい、今日はたしか大河内店長も出勤する日だ。どうしよう・・・・・・。
「チーフ、これは・・・・・・」
呆然と立ち尽くす僕の傍に、三神さんがいつの間にか寄って来て声を掛けてくれた。
「完全にやっちゃってますね。どうしよう」
「うーん。とりあえず、私そこの平台空けるので並べちゃいましょう。インプロの特売ってことで、赤字でも何でも売っぱらっちゃいましょう。ねっ!」
頭の切替、決断力。早いなぁと心底感心してしまう。
「・・・・・・。よしっ、もうそれしかない。俺、売価変更とポップ作ってきます」
さすがは、三神さん頼りになります。
と、同時に動揺してしまった自分が惨めで悲しくなる。決断力だけじゃない、部下を引張るマネェージメント力があれば、結婚生活も上手くいっていたのではないか--。
パソコンを操作しながらだんだん関係の無い事を考えてしまう。
「おう、枕崎ー」
「て、店長。おはようございます」
いつの間にか、大河内店長が出勤する時間になっていた。
「お前、そこの平台のヨーグルト--」
やばい・・・・・・。言い訳を考えている暇がなかった。終わった。
「あれ、良いじゃねぇか。先週の日経の記事に出てたやつだろ。ああやって自分から仕掛け事が大事なんだよ。トライだよトライ!なっ、もっと毎週やれよ。ああいうのー」
「あっ、はい」
ニッケイ?日経新聞?なんの事か・・・・・・。
急いで売場に戻ってポップを付けていると三神さんがささっと寄って来て「上手くいった?」と聞いてきた。
「上手く?ああ、店長に全然怒られなかったです」
「ほら、やった!私が一芝居打っておいたのよ。このヨーグルトが先週の日経新聞に大きく取り上げられていたってね」
「えっ、じゃあヨーグルトは実際新聞には載ってないの・・・・・・」
「さあー?うふふ」
恐ろしきかな、三神・・・・・・。
チーフなんて肩書があっても二十代の僕なんか、まだまだ諸先輩方の手のひらで転がされてるんだよな--。
「チーフ、お菓子売場確認お願いしますー」
「はい!今行きます」
さて、もうすぐ開店開店っと。
今日も気張っていきましょうー。
おいっ枕池!それで売上作れるのか!? 大造 @IRODORInoSATO
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