第12話 帰ってきた日々
戦いを終えて戦艦は基地へと帰還した。星河達は先に帰ったが、慎介と卑弥呼はそれからも基地の人達と話し合いを続ける博士に付き合って残っていた。
妹へのお土産を買ってようやく基地を出た頃にはもうすっかり夜になっていた。
「あの星空の中まで行っていたなんてなんだか不思議な気分だよな」
「そうじゃな。わらわにとっても初めての体験じゃった」
「だが、まだ私達の行ったところは宇宙のほんの入り口に過ぎないんだ。これからはもっと遠くに安全に行けるようにならなければいけないね」
行く前は気乗りのしていなかった博士にとっても良い経験になったようだった。その考えは変わったのだろうか。慎介は気になって聞いた。
「それで博士は軍の基地で働くのか? 宇宙の開発に関われるんだろ? 俺なんかじゃ想像も付かない世界だな」
「私の考えは以前と同じだ。まず高校を卒業する。それから大学にも行く。慎介達と一緒にな。だが、研究の行き詰まった時に休みにバイトぐらいはしてもいいかもしれないな」
「そうか」
どうやらそれぞれに得るものはあるようだった。卑弥呼がふいっと振り返る。
「なんだったら、わらわの元で働かせてやってもよいぞ」
「お前のところで何をやるんだよ……」
他愛もない話を続け、博士と別れ帰宅する。時間が遅くなっていたので学校の部活に行っていた美沙の方が先に帰っていた。
「おかえり、お兄ちゃん。遅かったね。基地はどうだったの?」
「なかなか良かったぞ。博士も感心していた」
戦艦に乗って宇宙まで行ってエイリアンと戦ったとまで言うとさすがに驚かれそうなので黙っていたが、卑弥呼が黙っていなかった。
「わらわ達は戦艦に乗って宇宙まで行ってエイリアンと戦ってきたぞ」
「うわ、凄い。あたしも行けばよかった。部活さえなければなあ……」
「おい、卑弥呼。宇宙の事は秘密だって言われただろ?」
「あ、そうじゃった。美沙よ、この事はくれぐれも他言は無用にな」
「分かった」
「これはお土産だ」
慎介の差し出したのは漫画のようなキャラを象ったキーホルダーだ。美沙は不思議そうに手を出してそれを受け取った。
「これは?」
「ラピスちゃんと言って戦艦のイメージキャラクターらしいんだ。艦長に勧められたんだが、お前には子供っぽかったかな?」
「ううん、お兄ちゃんの買ってくれた物なら何でも嬉しいよ。ありがとう」
それからリビングに行って人心地付く。変わらない家を見ながらくつろいだ慎介は何げなく言った。
「星河って女の子も来ていて、お前に似て元気な奴だったよ。何だか妹が一緒に来ている気分だったな」
「まさかのあたしの立場の危機!?」
「慎介、海の特集をやっておるぞ。いつかはこっちの底の方にも行ってみたいものじゃな」
友達になれるかもしれないと思ったのだが、美沙に余計な警戒心を抱かせてしまったようだ。慎介はそれ以上余計なことは言わず、卑弥呼とテレビに付き合うのだった。
次の日の学校からの帰り、慎介には寄るところがあった。クラスメイトと話している卑弥呼をこっそりと教室に残し、立ち寄ったのはゲーセンだ。
「ここにあるのかな? お、あった」
コズミックエイリアン。艦長の言っていたゲームだ。見た感じではどこにでもある普通のシューティングゲームのように見える。
これが軍が設置した物だなんて本当かは分からないが、その秘密は今の目的には関係ない。
「俺が星河の記録を抜いてやるぜ」
ロボットと戦闘機、乗るものこそ違え同じパイロットとして負けられない戦いがここにある。
慎介は意気揚々とコインを入れてプレイを開始する。だが、ゲームは最初から難解だった。そもそも動きの速い戦闘機を制御するのが難しいし、それを狙ってくる敵の攻撃も気づけば当たっている。しまいには壁にごりごりと当たってゲームオーバーだ。
「これ難しいぞ。だが、諦めるには早いよな!」
途中再開なんて生易しい物はなく、また最初からだ。
慎介はコインを投入して何とか行ける地点を伸ばしていく。だが、どうしても一面の途中でゲームオーバーになってしまう。
「俺、基地から飛び立っただけで宇宙まで行けない。リアルで宇宙まで行ってエイリアンを倒しているというのに……」
「下手ですね」
「うえっ!?」
悔しさに打ち震えていると、いつの間にか傍に知っている奴が立っていた。彼女も学校帰りなのだろう、制服を着た星河だ。他の二人の姿はなかった。
「夜見と光実ならいませんよ。今日は私一人です」
気にしていると思われたのかそう言われてしまう。どこか陰に潜んでいる気がしてならないが、今は気にしないでおこう。
「どうしてここに?」
「私もこのゲームをやりに来たんです。憂さ晴らしに」
「お前って争いとか嫌うタイプだと思っていたぜ」
「え? だってこれはゲームじゃないですか。誰も傷つけたりしませんし、ただプレイを楽しむだけの物です」
「あ、そうだよな。これってゲームだもんな」
戦争が嫌いな人でもゲームは楽しんだりするだろう。当然の事に納得し、慎介はおとなしく席を譲った。
星河は代わって席に着き、慣れた手つきで操作を取り始めた。
「こんなの戦闘機の操縦と同じで簡単ですよ。ほら、見ていてください」
ゲームを始めると星河の指は全く異次元の動きをし始めた。何がどうなっているのか慎介にはさっぱり読めないが、素早い自機をまるで自分の手足のように操り、あっという間に敵を全滅させて一面をクリアしてしまった。
「すごい……これがエースか……」
「ふふん、私にかかればこんなもんですよ。さあ、続きをどうぞ」
「え??」
「私の気は晴れました。次はあなたの腕前を見せてください」
「ええーーー!?」
慎介は代わって席に着くが、一面もクリアできなかった彼がゲームオーバーになるのには数秒も掛からなかった。
「駄目だな、俺」
「練習すればどうにかなりますよ。お金ならあります」
星河が両替を済ませ、慎介の横にどさりとコインを積み上げた。
「お、俺こんなに返せねえけど……」
「構いません。憂さ晴らしに来たと言ったじゃないですか。さあ、頑張ってください!」
「あ、ああ……」
星河の顔がニヤけている。その顔はロボットと戦闘機、乗るものこそ違え同じパイロットとして勝てる物ならやってみろと言わんばかりだ。
結局慎介は警戒していた彼女の憂さ晴らしの相手をさせられてしまうのだった。自分の下手な腕前をしこたま見られた後でまた星河に腕の違いを見せつけられてしまった。
「駄目だ……俺は……エースにはなれない……」
「フフフ、ああ、面白かった」
慎介はフラフラになってゲーセンを出る。星河は楽しそうだった。そこに偶然部活帰りの美沙と鉢合わせた。
「お兄ちゃん! そんなにフラフラになってどうしたの!?」
「美沙か。お帰り」
「知り合いの方ですか? ただゲームをしていただけですよ」
「お兄ちゃんがただゲームをしただけでこんなにフラフラになるわけがない! お前が妹の座を狙う泥棒猫!」
「猫?」
指を突き付けられて不思議そうに首をかしげる星河。すぐに喧嘩を売られているのだと分かってなぜかマイクを取り出した。
「私の歌に感動なさい!」
「歌ならあたしだって歌えるんだよ!」
そこに卑弥呼も現れて飛びかかってきた。
「慎介! わらわを置いて一人で帰るでないわ!」
「一人で帰れるだろ!? クラスの奴らと話してろよ!」
卑弥呼にしがみつかれ、美沙と星河の言い合いが始まって、慎介の鬱憤も爆発した。
「俺は誰にも負けねえ! 俺はロボットのパイロットだ!」
こうして変わらないと思えた日常は少しの変化をして続いていくのだった。
邪馬台国の女王がロボットに乗って戦う話 けろよん @keroyon
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