第98話 生成AI

「柊、説明して!」

新田は有無を言わせぬ圧力で柊に詰め寄った。


「新田が言いたいのは、柊が出してきた技術があり得ないってことだよな?」

「ええ、そうよ! 現代の技術では絶対に実現できないわ」


景隆が感じていたことであったが、新田が断言したことで確信に至った。

景隆はあの場の全員の様子を窺っていたが、同じように感じているのは下山くらいだ。


「ちなみに、新田が実現できないと思った根拠を教えてくれないか?」


新田は「そうね」と前置きしながら、話し始めた。


「今の技術で自然言語を処理する場合、いくつかのタスクに分類できるわ」

「詳しく」

「まずはテキスト分類ね、文章を特定のカテゴリーに分けること」

「メールがスパムかどうかを切りかけたりするってことか」

「それで合っているわ」


「次にキーワード抽出、文章からキーワードやフレーズを取り出すこと」

「主に検索エンジンで使われる技術だな」

「そうよ」


「あとは機械翻訳や文法解析ね」

「誤字や表記ゆれのチェックもそれに含まれるのか?」

「そうね、入れていいと思うわ」


新田は「ふぅ」と一息入れながら続けた。


「今の技術でできるタスクはそれくらいよ。

柊が用意したチャットの仕組みを作る場合、質問に応じて予め用意した回答を選んで返すことしかできないわ。

特にバースデーソングが著作権に該当するかどうかなんて、明らかに想定外の質問よ!」

「柊もその認識で合っているか?」


景隆にとってこの問いは重要であった。

柊がこれを肯定すれば、未来の技術であることを認めることであり、否定すれば何らかの辻褄が合う説明が必要になる。


「あぁ、合っているぞ」

「あっさり認めやがった」


柊から自分の事情を明かしたいという相談があった。 ※1

景隆はこれを了承していた。


「この仕組みは生成AIと呼ばれる」

「文章を作るAIってことか?」

「もう少し広い文脈だ、画像や音声、動画などを作るのも生成AIだ」

「そんなことまでできるのか!」


新田の眉がピクッと反応した。


「とりあえず、自然言語の話に戻そう。今日、俺が見せたのはLLMという仕組みだ」

「なにそれ?」

「『Large Language Model』の略で、日本語では大規模言語モデルと呼ばれる。

自然言語処理(NLP)技術を使って大量のテキストデータを学習し、人間の言語を理解し生成する能力を持つAIモデルだ」


「もう少し詳しく!」

新田の食いつきは、かつてないほどであった。


「ディープラーニングについてはすでに共有していると思うが、これを使って膨大な量のテキストデータからパターンを学習する。

単語やフレーズの出現頻度を学習し、次に来る単語を予測することで文の構造や意味を理解し、自然な文章を生成するんだ」

「ちょっと待って! その予測はかんたんにできないわよ!」

「アテンションメカニズムという仕組みを使っている。入力データの重要な部分に動的な重み付けをつける」

「コサイン類似度とは違うの?」

「コサイン類似度はベクトル間の類似性を測定しているが、アテンションメカニズムではニューラルネットワークで特定の入力に対してどの部分に『注意』を集中させるべきかを学習させているんだ」

「でもそうなると、計算量が――」

「ス、ストップ……タオルタオル」


二人の話が専門的になりすぎて、ついていけなくなったため、景隆は待ったをかけた。


「とりあえず、これだけは聞かせて、『アテンションメカニズム』っていうのは私はまったく知らないわ」

「あぁ、の論文で発表された」


柊はさらっとカミングアウトした。


⚠─────

※1 「芸能界に全く興味のない俺が、人気女優と絡んでしまった件について」 170話

https://kakuyomu.jp/works/16818093077567479739/episodes/16818093090768873178

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