第97話 チャットボット
「ユニケーションについて、ここになにか質問を入力してみて」
柊は開発中のチャット画面をプロジェクターに共有した。
鷹山は柊から指示されたURLのチャット画面に質問を入力した。
⌨─────
フレームレートについて教えてください
─────🖥️
しばらく時間が経過し、チャット画面に回答が出力された。
🤖─────
フレームレート(Frame Rate)とは、1秒間に表示される画像の枚数を指し、通常は「fps(frames per second)」という単位で表されます。フレームレートが高いほど、映像は滑らかに見えます。
ユニケーションでは、24fpsを推奨しています。
─────🖥️
「へぇ、すぐに答えが返ってきたッスけど、誰が答えているッスか?」
感心している竹野を他所に、新田は険しい顔をしていた。
「これは人間じゃなくて、プログラムで自動で回答しているんだよ」
「うそでしょ?」「マジッスか?」「信じられません」「まさか?」「……」
景隆も同様に驚いた。
この時代では自然言語を理解し、その回答を生成する技術は存在しない。
「とてもじゃないですが、信じられません。別な質問をいれてもいいですか?」
「どうぞ」
柊の発言を懐疑的に思っていた下山が、質問を入力していった。
⌨─────
「ハッピーバースデートゥーユー」の歌を動画に入れることはできますか
─────🖥️
🤖─────
「ハッピーバースデートゥーユー」は著作権の対象 ※1 であり、商業的な利用にはライセンスが必要です。そのため、ユニケーションの動画にこの歌を使用する場合は、著作権者からの許可を得る必要があります。
─────🖥️
「信じられない……」
下山は呆然としていた。
「そのURLのIPアドレスはプライベートですよね?」
鷹山は辺りを見回した。
柊が提示したURLは、この部屋だけで利用できるプライベートIPアドレスだ。
仮に人間が回答をしているのであれば、この部屋の誰かが入力をしているはずである。
質問を入力した下山以外、誰もキーボードには触れていなかった。
「……」
新田は恐ろしい表情を崩しておらず、景隆は寒気を感じていた。
「柊はサポートにこれを使おうとしているんだな」
「あぁ、そうだ。サポートの人員もこのチャットを使えるが、最初はコイツが回答することで人的なコストがだいぶ減るだろ?」
景隆は開いた口が塞がらなかった。
柊が未来の技術を使ってこれを作ったことは容易に想像が付くが、こんなことができるのは数十年――もっと先であると思いこんでいた。
(もしかして、柊は卒寿を迎えたおじいちゃんだったんじゃないのか?)
***
「柊、どういうことなの?」
景隆、柊、新田の役員だけが残った部屋で、新田は柊を問い詰めるように言った。
⚠─────
※1 2015年には著作権主張を退ける判決がでており、現在は公に使えます
柊がなぜ当時の年代に合わせたAIを用意できたかは、徐々に明かされていく……と思います
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