第3話

      天上天下唯我独尊」

 「「『二乗』

      カチカチ山の兎」


 大量の辛子味噌と、巨大な肉塊がぶつかり合い、爆ぜる。


 そしてその直後に肉弾戦が始まった。

 拳を突き出し、受け止める。

 けりを繰り出し、よけてカウンターする。

 女がナイフを投げ、辛子味噌で追撃する。

 ナイフを火炎で溶かし、辛子味噌を躱す。

 この間、0コンマ1秒。

 歓声が沸いた。

 激しい肉弾戦を繰り広げている片方は、神薙桜。もう片方は、見慣れない女だった。


 なぜこうなったのか。


 時は少し遡る。


 ※※※

 

 例の不良たちの事件から数日。圧倒的にそのような事件が増えていた。

理由は不明である。

強いて言うなら、今年は新入生の数が少々多かった程度だろうか。


「かいちょー、まーた不良案件ですか?」


「あぁ。ここ最近……今年に入ってから異様に増えた。早急に原因を探らなければな」


 そういうと、背後から近づいていた不良を蹴り飛ばす。


「天下の照ノ比良はどこへやら。堕ちたものだな」


「ほんとそうですね」


 数年前までの照ノ比良は能力について知られており、偏差値も高かった。

 しかし桜が入学する数年前あたりから不良が跋扈するようになり、能力で暴れた者たちに苦情が集まった。そうしたことで、表向きは能力の移植をやめたものとし、このことは国家機密となった。


 では、なぜ今だに能力の移植が続いているのか。そのことは、生徒たちの間ではもちろん、教師たちも知らない者が多い。


「さて、予鈴が鳴るまであと数分……残り業務終わるか?」


「……ちょっくら不良ぶっ潰してきます」


「待て待て待て待て!急ぎで終わらせる!大丈夫だ!」


 桜の頭にハンマーで殴られたかのような痛みが襲いくる。

 主に部下のことで。


 東雲南北西。普段は優秀な副生徒会長なのだが、一転、業務に支障が出ると、その原因をつぶそうとする。そうすると始末書を書かなければいけなくなり、業務に支障が出る。そしてこれは不良のせいだといい、つぶしにかかる。そして始末書を書く……という悪循環。


 ほかにも、数名の部下兼先輩がいるのだが、ほとんど仕事をしていない。

 むしろ不良として生きてる。

 部下を嗾けてくる。

 何してんだこの野郎。


「くっ、一体どうしたら負担が減るんだ」


「ニートの先輩(笑)をもう一度引き込めばいいじゃないですか」


「あ」


 頭痛が消えた瞬間である。


 ※※※


 きききききききんこーん

 きききききききんこーん

 きききききききききききききき


「うっさい!」


「出てきた」


 高速でチャイムを連打する桜。しばらくすると、扉からうさ耳の生えた女が出てくる。

 彼女こそが生徒会メンバーである先輩、加智加地兎かちかちうさぎ

 

「あ……桜じゃない。久しぶり」


「生徒会に帰ってきてください」


「……いやよ。あそこはもうこりごり」


「最近、妙に不良が増えてきついんです」


「知らないわよ。桃介にでも頼めば?」


「来なくなりましたよ。とっくに」


「――まじ?」


 桃介。元生徒会会長。

 ある日を境に、学校へ来なくなった人物。

 とてもまじめで、強かった。


「ま、立ち話もあれだからお入んなさい。お茶ぐらいは出すわよ」


「えぇ。お邪魔します」


 兎の部屋に入る。ツン、としたにおいが鼻をかすめた。


「で?なんで急に不良が増えたわけ?」


「それが理由がわからなくて」


「なるほどねぇ……まったくの原因不明ってことは……かかわってるわね、確実に」


「誰が?」


「オニーさんよ」


「オニーさん?」


「数年前、無数の不良を引き付けて学校崩壊を起こそうとした事案……通称、百不良夜行。この記憶は校長と教頭によってもみ消されたんだ」


 不祥事を避けたかったんだろうね。と兎が付け足す。


「そして、その事件で最も不気味なのは、黒幕が分かっていないこと。そのことから、見えないものを意味する「鬼」と呼ばれるようになったのよ」


「なるほど」


 そういうと、桜は茶を飲み干す。


「先輩。どうしても生徒会に戻りたくないというなら、決闘を受けてください」


「受けるわけでないしょ。そんな負け戦」


「大々的に宣伝してますよ、学校では。来なかったら臆病者だって言われるでしょうね」


「ッ――」


「まぁそこまで私のドSではないので」


「いいわ。受ける」


 決闘。描いて字のごとく、勝者と敗者を決める闘い。

 負けたほうは、言うことを聞かなければならない。

 受けるのは強制ではないが、それなりにバッシングを受けることになる。

 それだけは、この学園の生徒は避けたいことだった。


「場所は照ノ比良ヶ丘の上学園決闘室。日にちは今日より3か月と20日後のクリスマス。ぶっちゃけ、ここが土壇場です」


「オーケー。せいぜいカチカチされないように頑張りなさい」

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照ノ比良ヶ丘の上学園 A1組 2番 神薙桜。その女、独裁者につき。 葵日尾合 @20240722

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