盆が明ける前に
櫻井賢志郎
第1話
あの日見た人の骨は、思ったよりも小さくて、それが本当に大好きだったおじいちゃんの骨なのか、あの時の僕にはわからなかった。
いつも後ろにくっついて、どこにでもついて行った。おじいちゃんのことが大好きだったから。
僕の中で一番古い記憶は3歳の時におじいちゃんと見た桜の花で、広くて青い空の中にピンクの花びらが舞っていたのを今でも覚えている。
僕がもっと大きかったらおじいちゃんをどこかへ連れて行ってあげれたのかな、もっとたくさんの思い出を作ることができたのかな。
突然のことで何が起きたのかわからなかったけれど、ある日の夕に一台の救急車が家にやってきた。
慌てるように家の中に入ってくる緊急隊員、向かったのはお風呂だった。
「おじいちゃん大丈夫?」
何が何だかわからなかったけれど、僕はお風呂に行って苦しそうにするおじいちゃんに声をかけた。
「邪魔になるからこっちに来てなさい!」
そう言われて泣きながらお母さんのもとへ行った。この時の涙がなんの涙だったのか、もしかしたら子供ながらに事の重大さを感じていたのかもしれない。
担架に乗せられ救急車の中へおじいちゃんは運ばれていった。
僕はただわけもわからず泣きながらその日を過ごして、次の日みんなで病院へ行った。
大人たちの話してる内容はさっぱりわからなかったけど、初めてお父さんが泣いてるところを見ることになった。
「おじいちゃん、死んじゃったんだよ」
お母さんに言われて、お父さんがなんで泣いてたのかようやくわかった気がした。
それから大人はみんなバタバタと忙しそうにしていて僕と兄弟は子供ながらに邪魔にならないように過ごしていた気がする。
初めての骨上げで、目にした人の骨は誰のものなのかわからないくらい細かく砕けていて、でもそこにいた誰もが疑うことなくおじいちゃんのことを想って橋渡しをしていたと思う。
僕も兄弟と一緒に骨を拾った。
「立派な喉仏だね」
泣きながらお母さんが言った。
他の骨よりもしっかりと形の残った喉仏をお父さんが大事そうに、優しく拾う。
お葬式には沢山の人がいて、沢山の人が涙を流していた。
バタバタとした時間も少しずつ落ち着いて、僕はやっとおじいちゃんがもういないことを実感する。
まだ小さかった僕は、僕なりの感謝を込めて仏壇に手を合わせた。
それから何年もの時間が経って、何度もお葬式に参列した。きっと他の同い年の子達よりその機会は多かったと思う。
友人の親やお世話になっていた先輩、時には自分にとって身近だった従兄弟や叔母さんのお葬式もあった。
お葬式をしたわけではないけれど愛犬が亡くなったこともあった。
お盆のこの時期になると思い出す言葉がある。
「亡くなった人を敬い弔うことは、人に出来る最上の行いなんです」
数年前に亡くなった従姉妹の納骨の時にお坊さんに言われた言葉だった。
お坊さんが言うには、亡くなった人を想って仏壇に手を合わせたり、墓参りに行くということは人にしか出来ない尊い行いだということだった。
せめて年に一度でも良い、出来ることなら心ではなく行動として、形として偲び想いを伝えるようにしてくださいと言われた。
それから僕は、お盆の時期になると必ず仏壇に手を合わせるようにしている。
行けるならお墓にも行くようにしている。
「今も僕は必死に生きています。これからも見守っていて下さい。」
そう言葉にしてまた来年会いに来ることを約束する。また来年笑顔で会いに来れますようにと願いも込めて。
盆が明ける前に 櫻井賢志郎 @kenshirooo
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