第42話

「これで終わりだ!」僕はパンプキンマンの一瞬の隙を見逃さず、全力で攻撃を仕掛けた。


ここで倒さなければ、妹を救うことも、綾美の犠牲を無駄にすることもできない。


僕は持てる全ての力をこの一撃に注ぎ込んだ。


その瞬間、パンプキンマンが「ぐはっ!」と苦しげな声を漏らし、倒れ込んだ。


パンプキンマンのカボチャの面が地面に衝撃を受けて割れた。


そこで現れたのは、驚くべき光景だった。僕の彼女だった、月島澪の顔がそこにあったのだ。


僕は信じられない思いで彼女を見つめた。


「澪……」と僕は呟いた。


パンプキンマンの正体が澪だったことに衝撃を受け、言葉を失った。


「えっ、なんで……」


僕は声を絞り出すように言った。


かろうじて呼吸をしている状態の澪が少し笑い、「あなたと付き合ったのはあなたに冥界の王の素質があったからよ」と語り出した。


彼女の声はかすれ、しかしその言葉は明瞭だった。


「私はあなたをレッドツリーの王にしようと思った。でも、調査の結果、あなたよりも妹の方が王の素質があると判明したので、私はあなたと別れた」と続けた。


「じゃあ、既に僕が冥界の王になったことがわかった時点で僕の妹には用がないはずだろ?何故、ハロウィンナイトの今日まで待った?」


僕は問い詰めるように聞いた。


澪は荒い呼吸の中で言葉を絞り出した。


「あなたの妹には冥界の王ではなく、誕生の王の力を授けることに計画を変更したの。誕生の王の力は死者を甦らせる冥界の王とは比べものにならない力。無から有を生む神に等しき力なのよ」と語った。


僕はその言葉に愕然としながらも、澪の意図と計画の全貌が少しずつ理解できてきた。しかし、その理解がもたらす重圧と悲しみは僕の胸を締め付けた。


「さぁ、私を殺しなさい」と澪は静かに言った。


僕が沈黙していると、澪は綾美の亡骸の方を一瞥しながら、「私はあなたの妹をさらい、大切な人の命を奪った。どうするかはあなた次第だ」と淡々と言った。


その言葉が胸に突き刺さり、怒りが込み上げたが、本当にここで澪を殺して良いのか、心の中で迷いが生まれた。


「ヴァンパイアも皆、元は人間だった。彼らもまた、仕方なくこの道を歩んだ者たちだ。冥界の王の力を持つあなたなら、彼らの声を聞き、新たな指導者としてレッドツリーとヴァンパイアハンター協会を統一することもできる」と澪は続けた。


その言葉は、僕に新たな責任と使命を示すように響いた。


僕は澪の言葉に耳を傾けながら、目の前の現実と自分の感情に向き合った。


怒りと悲しみ、そして迷いが交錯する中で、次にどうするべきかを必死に考え続けた。


澪の話を聞いているうちに、僕はジャックのことを思い出した。ジャックは綾美の父であったが、ヴァンパイアにされてしまった。


しかし、僕が冥界の王の力で彼のヴァンパイアの力を奪い、人間に戻したのだ。


確かに、僕ならこの力を使ってヴァンパイアたちを救うことができるかもしれない。


そんなことを考えていると、澪が再び口を開いた。


「さぁ、私を殺し、新たなレッドツリーの王となるのだ」と澪は促すように言った。


しかし、僕は何も言わずに立ち尽くしていた。


澪は僕の様子を見て、少し悲しげな表情を浮かべ、「そうか、わかった。決心がつかないのだな」と言った。


その瞬間、澪は自らの命を終わらせる決意を固め、行動に移した。


ぐさっ!


澪は触手を自身の首に刺し、命を絶った。


僕は驚きと悲しみの中で、その瞬間を見つめるしかなかった。


「澪!」と僕は叫び、彼女の身体を抱いた。


既に彼女は息がなく、穏やかな顔で永遠の眠りについたようだった。


胸の奥に湧き上がる喪失感に、僕の心は締め付けられた。


次の瞬間、僕の妹が目を覚まし、ゆっくりと立ち上がった。


澪が亡くなったことで妹の封印が解かれたのだ。


その光景に胸がいっぱいになり、涙が止まらなかった。


「紗夜!」と僕は叫び、妹をしっかりと抱きしめた。


彼女の温かさを感じると、心の中の空虚が少しずつ埋まっていくのを感じた。


「痛いよ、お兄ちゃん」と紗夜は笑いながら言った。


その笑顔は、かつての無邪気な妹そのものだった。


僕は「ごめん、ごめん」と何度も謝りながら、少し彼女から離れた。


涙が目に浮かび、視界がぼやけたが、紗夜の顔を見つめ続けた。


紗夜は周囲を見回し、「一体、何があったの?」と不安そうに尋ねてきた。


その言葉に、これまでの出来事がフラッシュバックし、僕の心は再び重くなった。


「大変なことがあったんだ」と僕はゆっくりと話し始めた。


「君がさらわれてから、僕たちは多くの困難を乗り越えてきた。綾美も……彼女は君を救うために最後まで戦ってくれたんだ」


紗夜は黙って僕の話を聞いていた。


その瞳には不安と悲しみ、そして希望の光が宿っていた。


僕は話し続けることで、自分の中の混乱と痛みを整理していった。


「でも、これからは一緒だ。もう二度と紗夜を一人にしない」と僕は決意を込めて言った。


紗夜は静かに頷き、僕の手をしっかりと握りしめた。


その瞬間、僕たちの絆がより一層強くなったのを感じた。


僕は妹を守るため、そしてこれからの未来のために、全てをかける覚悟を新たにした。


その後、僕はレッドツリーの新たな王となった。


過去の戦いを乗り越え、今や僕はこの闇の組織の頂点に立っていた。


しかし、それだけでは終わらなかった。


レッドツリーとヴァンパイアハンター協会は裏で密接に繋がっていたため、実質的に僕はヴァンパイアハンター協会をもまとめる存在となったのだ。


ヴァンパイアハンター協会は長きに渡り、ヴァンパイアを狩るという名目で活動してきた。


しかし、その裏ではレッドツリーと手を組み、ヴァンパイアによる世界支配を企んできた。


人類を守るための組織だと思われていた協会が、実は暗黒の勢力と共謀していたのだ。


しかし、僕が王となってからはその方針が大きく変わった。


冥界の王の力を持つ僕は、新たなビジョンを掲げた。


ヴァンパイアを狩るのではなく、可能な限り人間に戻し、ヴァンパイアと人類の共生を目指すことにしたのだ。


「これからは、ヴァンパイアと人間が共に生きる未来を作り上げる」と僕は宣言した。


その言葉は、レッドツリーのメンバーやヴァンパイアハンター協会の者たちに新たな希望と方向性を示した。


困難な道ではあるが、僕は綾美や紗夜、そしてすべての大切な人たちのために、この目標を達成する決意を固めた。


僕の新たな統治の下、レッドツリーとヴァンパイアハンター協会は徐々に変わっていった。


ヴァンパイアと人間の共生を目指す活動が始まり、その中で多くのヴァンパイアが人間としての生活を取り戻した。


困難な道のりであったが、一歩ずつ前進していくことができた。


そして、僕は新たな王として、人類とヴァンパイアの未来を築いていくことを誓った。



ある日、僕は一人で静かに街を歩いていた。


ふと目に留まったカフェに足を向けた。


そのカフェは、かつて綾美と一緒に訪れた場所だった。店内に入ると、心地よい音楽とともに懐かしい記憶が蘇ってきた。


カウンターに座り、僕はふとメニューを手に取った。


その時、彼女がモンブランを美味しそうに食べていた光景が頭に浮かんだ。


綾美の笑顔、甘い香り、そして彼女が幸せそうに食べる姿が鮮明に思い出された。


僕は静かに胸に手を当てた。


綾美の心臓が僕の中で確かに鼓動しているのを感じた。


その鼓動は、彼女の命がまだ僕の中で生き続けていることを示していた。


「これまでの人生で失ってばかりだったな」と僕は心の中で呟いた。


不運にも両親を失い、そして今は戻ってきたが一時的に妹の紗夜も失った。


そして、綾美を失った。彼女がいなくなった今、僕の人生はどういう意味を持っているのだろうかという思いに包まれた。


カフェの窓から外を見ると、人々が楽しそうに過ごしている光景が広がっていた。


僕の胸には深い喪失感と孤独が広がっていたが、同時に綾美の心臓の鼓動が僕に生きる力を与えていることも感じていた。


結局、僕の人生はなんなんだろうか。


この問いに対する答えを見つけるために、僕はこれからも歩み続けなければならないのだろう。


綾美の心臓の鼓動を感じながら、僕は深い息をついてカフェを後にした。


僕がゆっくりと歩いていると、不意に綾美の声が頭の中に響いた。


「せっかくのハロウィンなのに暗い顔するんじゃないわよ」と言われた気がした。


驚いて後ろを振り返ったが、そこには誰もいなかった。


少しの間立ち止まり、僕は自分の胸に手を当てた。


綾美の心臓が確かにここで鼓動しているのを感じた。


これまで失ってばかりの人生だったが、一つだけ大切なものを手にしていることに気づいた。


前を向いて生きるんだ、と僕は決意を新たにした。


人間のため、ヴァンパイアのために、まだまだやるべきことがある。


過去の喪失に囚われるのではなく、未来に向かって進むべきだ。


心の中で綾美に感謝しながら、僕は一歩一歩、確かな足取りで前へと進んでいった。


ー完ー

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ヴァンパイアハンター 〜僕は拐われた妹の為に吸血人になる〜 @ato625

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