第10話 お姉ちゃん

「おはよう。今日もゲームをしにきたよ」


「え。いいじゃない。お姉ちゃんも夏休みなのっ!」


「キミ、遊んでばかりじゃないって分かるよ」


「だから、今だけでも、わたしと一緒のときだけでも楽しく遊ぼうよ?」


「ふふ。お姉ちゃんとキミだけの秘密の関係なんだから」


「幸せを感じているんだからいいじゃない」


「そそ、スイカ持ってきたよ。一緒に食べよう?」


「テーブルで食べるの? ゲームが汚れちゃうか」


「なんだかタイミング悪いね。ごめん」


「そうだ。今日は夏祭りだよ。花火ここから見えるかな?」


「え。見えないの? で、でも音くらいなら……」


「うん。ごめん。変な期待して」


「ううん。わたしやっぱりワガママだ」


「でもね。ワガママって悪いことばかりじゃないんだって気がついたの」


「みんな幸せになりたいのは一緒なんだよ」


「わたし、全然みんなと話が合わなくて、無理に合わせると心が軋むような気がして」


「すごく辛かった……」


「本当のわたしはここにいるよ、って叫びたかった」


「でもキミを見ていて、わたしってなんてずる賢いんだって思った」


「賢いとは違うんだろうけど、自分に素直になれないの」


「素直で生きていくって、大変なんだよ」


「みんな自分の仮面を被っている。本当はこうしたいとか、ああしたいとかあるのに」


「でもキミは素直に受け止めて、素直に返してくれる。それがどんなに素敵なことだろうって思う」


「表面だけ綺麗でも仕方ないんだって」


「内面が綺麗なキミにならどんな困難も、どんな悲しみも乗り越えられると思うんだ」


「強さを持っているからね」

 ウインクするネネ。


「さ。ゲームしよ」

 ゲームの起動音。


「キミの好きなゲームをしよ」


「夏はたっぷりあるんだから」


「わたし、頑張ったけど、キミが引きこもりになる原因だもの」


「キミの未来は明るいよ」


「哀しいこと。理不尽なこと、たくさんあったよね」


「でも、夏には、お盆には帰ってくるから」


「約束だよ。また会おう」


「何度でもキミの傍に現れるよ」


「だって、キミのことが大好きだから」


「わたしの弟だから」


「もうわたしは未来がないけど」


「でもキミには未来があるから」


「ごめんね。ずっと傍にいられなくて」


「ずっと生きていなくて」


「ずっと遊んでいられなくて」


「わたし、幽霊だから」


「死んじゃったら何もできないんだよ」


「だから、キミは生きて」


「生きて未来をつかんで」


「お姉ちゃんとの約束だぞ」


 指切り。


「約束したからね」


「キミは強く生きて」

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