第5話 初めての支援部隊

莉瀬にとって八咫烏で過ごす二日目の朝。


休暇の日と言えど、隊服を着てターシェは耳につけている莉瀬。

昨晩彩葉に聞いた話によると、基地外へと出かける時は皆私服を着るものの、基地内で休暇日を過ごす際私服を着る者は殆ど居ないらしい。

それもそのはず、基本隊内にいる人間は隊服を着ており、休暇日といえど私服など着ては目立ってしまうからだ。


そして、支援部隊製作課に行くための準備を終えた莉瀬が部屋を出るも、そこに彩葉の姿はない。昨晩お互いが自室に入る直前、


「明日、私たちは時間に部屋の前で待ち合わせね!朝陽とは寮の前で待ち合わせだから!」


と張り切っていたのは彩葉の方だったのに。


「....。」


困ったものだ。扉を叩くかこのまま待つか。

部屋の中から音は聞こえず、とても準備している様には思えない。

何かあったのだろうか、間違えてもう寮を出てしまったのだろうか。


十数分待っても出てこない彩葉に痺れを切らし、莉瀬はとうとう扉を優しく叩いた。


「もしもしー、彩葉さーん....」


他の部屋の者に迷惑がかからぬよう出来るだけ小声で名前を呼ぶ。


「もしもーーし....」


それは、何度か呼んだ後の事だった。


「ぎゃぁーっ!!!寝坊ーっ!!!!」


彩葉の悲鳴に近い声が扉越しに聞こえてきた。やはり寝ていたらしい。


「ごめん莉瀬ちゃんっ!!!先に朝陽と合流しといてくれないかなぁっ?!?!多分心配するだろうから!!ほんとごめんっ!!!」


ドタバタと大きな物音と共に焦り混じりの声が聞こえてくる。中の光景は見えないが、何となく音で想像がつく。彩葉の部屋は今、とても人には見せられない状態となっている。


「ふふっ、分かりました。じゃあ先に、寮の出入口に行っていいますねっ。」


確かに朝陽も心配しているかもしれない。莉瀬は足早に朝陽の待っているであろう寮の出入口へと向かった。小走りで寮の出入口へと行くと、待ちくたびれた様子の朝陽が寮の門にもたれかかっていた。


「っ....沖永さん、おはようございます。」


「朝陽でいいよ。」


「えっ、えっと、じゃあ....朝陽くん....。」


「その様子だと、彩葉は寝坊かっ?」


「はい。朝陽が心配するだろうから先に行ってて〜!っとのことでした。」


「ははっ、こんなことで心配してたら彩葉の幼なじみは務まらねぇよっ。....莉瀬も、彩葉はよく寝坊するから、心配とかしなくていいからなっ。」


「....ふふっ、分かりましたっ。」


長年彩葉と過ごしてきた朝陽の言葉は安心感がある。


「あいつとは仲良くやれそっ?」


「えっ。は、はい。」


突然の質問に少し戸惑うも、即座に答える莉瀬。


「ははっ、そっか!」


その答えを聞き、自分の事のように喜び、その名の通り太陽のように明るい笑顔を見せる朝陽。


「それ聞いたら彩葉、喜ぶと思う。悩みとか、何かあったりしたら、なんでも彩葉に話すといいよ。戦闘部隊は女の子少ないし、あいつ口は堅いからさ。」


「はい、ありがとうございます。」


“幼なじみ”としか聞いていないがまるで付き合っているのではないかと思えるほど心の距離感が近い二人。なんだか少し、羨ましくも思う。

その後も朝陽は会話が途切れぬよう様々な話しをしてくれた。そして、しばらくすると


「ごめん〜っ!お待たせーっ!!」


遠くから髪を結いながらトコトコと走ってくる彩葉の姿が見えた。


「お、やっと来たな!」


「いやーっ、ほんっとぉにごめんっ!!」


息を切らしながら謝罪の言葉を繰り返す彩葉。莉瀬と朝陽は会話をして時間を潰していたため、何も気になどしていない様子だった。


「これからは、もし寝坊した時は私が起こしますね。」


「あんまり甘やかすと完全に起きなくなるぞ〜こいつ!」


一日で随分と距離の縮まった藤白班は、食堂で朝限定メニューの中から選び、朝食を済ませたあと、基地内をしばらく歩き、支援部隊製作課を訪れた。


「おはようございまぁ〜す!」


「おはようございます。藤白さんのパーティードレスの製作ですね。」


大きなと元気よく彩葉が挨拶をすると、支援部隊員の男性がカウンター越しに三人を出迎えた。別部隊員からの作業依頼はこのカウンターで受けるらしい。そしてカウンターの横に見えるガラス張りの壁の向こうの部屋が製作室となっており、様々な器具などがずらりと並んだ壁のあるその部屋で、数人の隊員が能力や自分の手を使い黙々と作業を行っていた。


「はいっ!この子が藤白莉瀬ちゃんです!お願いしまーす!」


どうやら彩葉が事前に連絡をしておいてくれたらしい。


「初めまして。以前からお二人のターシェなどのメンテナンスを行っていた椋田むくたです。今後は藤白さんの物も僕と、もう一人の久下くげという者がメンテナンスしますので、よろしくお願いします。」


「よろしくお願いします。」


「久下さーん、蓬田さん来ましたよー。」


「はーいっ。」


すると、奥の部屋からおっとりとした声の女性隊員が現れた。

莉瀬は久下隊員と採寸の為に更衣室へと向かった。そして朝陽は調子の悪かったターシェを直してもらい、彩葉は椋田と何か会話をしながらしばらく待っていると、


「お待たせしました。」


完成したパーティードレスと、小物類の入った紙袋を手に持った莉瀬が更衣室から出てきた。満足のいくドレスを作ってもらったようで、採寸前より表情の柔らかい莉瀬だった。そしてあまりにも早い出来に彩葉と朝陽は驚いていた。


「え?!もう出来たの?!夕方くらいに取りに来るんだと思ってたーっ!!」


「久下さんは隊内でもトップクラスの被服能力を持っていますから。そして、こっちも出来ましたよ。」


久下は布を自分の好きな形に変える能力を持っている。そのため隊員の多くは彼女に服を作ってもらっている上、破れたり汚れたりした隊服などの直しも行っている。

そして、久下の能力について自分のように誇らしげに話した椋田がカウンターに置いたのは、一丁のハンドガンだった。


「えっ?!こっちももう?!」


「....自分も、物作りの能力を持っているので。」


「すっごぉーい!」


「これは....銃?」


彩葉はその銃がなんなのか分かっているようだったが、莉瀬にはさっぱりだった。


「これはね、莉瀬ちゃんのだよ!」


「えっ、私の....?」


昨日莉瀬が何気なく零した、遠距離攻撃が出来るようになりたいという言葉を彩葉は覚えており、莉瀬が採寸を行っている間に椋田に銃の製作をお願いしていたのだ。


「藤白さんが遠距離攻撃を出来るようにと今の時間で蓬田さんの要望を聞いて作らせて頂きました。ならべく反動を抑える機能と、メドゥーサの心臓位置を把握し狙いのズレを多少補正する機能と、弾の補充の要らない機能が着いています。」


あまりにも都合の良すぎる機能を備えた銃をこの短時間の間で作り出してしまう製作部員達の能力には驚かされる。


「へぇー銃。かっこいいわね〜っ。それならー....、はいっ。」


莉瀬のパーティードレスを作った久下が、その銃を見ると指をクルクルと動かし、一瞬にして太ももに取りつける事のできるガンホルダーを作り出した。


「これで内ポケットにそのまましまわれていたナイフもガーターベルトに仕舞えますね。」


「せっかく久下さんがガーターベルトも作ってくれたことですし、この銃是非使ってください。ただし能力で作った銃なので、月に一度はメンテナンスをしに来てください。」


「お二人とも本当にありがとうございます。」


久下と椋田二人共の能力にお世話になった莉瀬は深々と頭を下げた。


「あ、今一応試し撃ちしますか?」


「えっ、良いんですか?」


椋田の提案により、莉瀬は銃の試し打ちを行うことにした。莉瀬の返事を聞くと椋田がカウンターの下からコルク蓋の付いた小さな瓶が取り出す。莉瀬が狙いを定め、呼吸を整える。


「はい。ちなみに対メドゥーサ用の弾丸が生成されるので、人間に当たっても死にはしません。痛いけど。じゃあ、少し離れたところからこの瓶を撃ってみてください。」


そう言いながらカウンターの下からコルク蓋の付いた小さな瓶が取り出した。皆少し離れ、莉瀬の試し打ちを見守った。莉瀬が狙いを定め、呼吸を整える。


「あぁ、ただし照準補正機能はー」


椋田が付け加えて説明を始めた瞬間。集中していた莉瀬は声に反応し思わず発砲してしまった。


「メドゥーサにしか機能しないので....と言おうと思ったんですが....。」


莉瀬の撃ったガラス瓶を見ると、椋田は言葉を止めた。それもそのはず、莉瀬はガラス瓶の小さなコルク蓋だけを綺麗に撃ち抜いたのだから。


「いい銃ですね。ありがとうございます。」


藤白莉瀬は高い射撃能力を持っている。

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藤白莉瀬は世界を救う反逆者〜メドゥーサ狩りをしていたら世界の秘密を知ってしまいました〜 @_iHNaT

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