第5話 歌姫(3)
詩歌ちゃんが有志に出ると決まってから、僕たちは放課後毎日集まり、伴奏の練習やギターの練習などをした。最初は詩歌ちゃんがギターを持って弾き語りをする予定だったが、僕の引きこもり時代のパソコン技術と木下さんのピアノ、央太のベースで何とか曲を作り上げることができた。本番はこのCDを流して歌う。当日の照明は黒川さんと神田さんがやることになった。僕たちのこの活動が、クラスの人に伝わっていきだんだんと詩歌ちゃんがクラスに馴染んで行った。
そして当日、有志の時間がきた。詩歌ちゃんのお母さんが、車椅子に乗って最前列にいる。そして詩歌ちゃんの番になった。
「1年1組上野詩歌です。私の夢はシンガーソングライターです。私には1番に歌を聞いて欲しい人がいます。私の母です。私の母は私と兄を大切に育ててくれました。そんな中今は癌と戦っています。私の夢を1番に応援してくれて、真剣に受け止めてくれたお母さん。大好きです。今日の為にたくさん力を貸してくれた、みんなありがとう。それでは聞いてください、『dear mom』」
マム、貴方が側にいて
笑うだけで
私は幸せなの
マム、貴方が側にいて
歌を歌うだけで
私は幸せなの
貴方が大好きだから
私もマムのようになるね
マム、貴方は私の事を
いつまでも子供として見る
マム、私はもう大丈夫
立派な大人になって
貴方を安心させるね
彼女の作った歌はまるで手紙のようで彼女やお兄さんのことを心配するお母さんへもう大丈夫と伝える歌だった。お母さんが、クラスの人が、学校の人がみんな感動していた。涙を流すものも沢山いた彼女の母はただひたすらに泣いていた。
この有志発表から5日後、彼女の母は突然息を引き取った。元気そうにしていたのでまるで信じられなかった。お母さんの最期はとても穏やかな顔をしていたそう。詩歌ちゃんは最後に自分の歌を聞かせられたことが本当に嬉しかったそう。
彼女のステージを誰かがSNSにあげたことにより、レコード会社の目にとまり彼女の夢は一歩近づいた。
少しの勇気が誰かの夢に繋がるこの世界は美しいと感じた。あの日カラオケに誘い、1人の人生を大きく動かした。僕は僕が少し好きになった。
お手紙屋さんはじめました Coruha🌱 @coruha
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