第2話

おかしい。


 ここ数日いつものあの子の姿が見当たらない。何かあったのだろうか。

不安に思いながらも鳴き続ける。その音はどこか弱弱しい。


 ふう、今日も十分働いたな。


 定位置で鳴き終え、場所を移動しようと思い、羽を開く。するとちょうどいつもの子が公園に来た。日はすでに傾いてきた。こんな時間に何しに来たのだろう。


僕は飛ぶのをやめ少し見守ることにした。


 彼女が来てから数分もしないうちに彼女と同じくらいの年の女の子三人がきた。


 彼女も気づいたのか三人組の方を神妙な面持ちで見つめる。


「ちゃんと来てくれたんだ」

 三人組の女の子の一人が口を開く。

「う、うん」

 小さく身体を縮こませながら答える。


「夏休みももう終わるしわかってるよね?学校が始まったらまた再開するからちゃんと来てね」

 そう言う三人組の満面の笑みの表情とは裏腹にあの子は悲しみの表情を浮かべ服を握りしめる。


なんだ?この光景は?

 


「もう…やめて…」

「え?なんて?あんたが拒否できるわけないでしょ。やめてほしければ大好きなお兄ちゃんにまた助けてもらえば?」


 そう言われたあの子の瞳に涙が浮かぶ。

「あっ、そういえばもう死んでたわね」

 面白可笑しそうにあの子を見る。なんて胸糞悪い光景だ。あの子は耐えきれなくなったのかその場に膝をついて泣き始める。


 その様子が面白かったのか、より一層三人組は笑い始めた。

何か思いついたのかあの子に三人組は近づいていく。今度は何する気だ。


 三人組があの子を囲む。するとあの子の耳元に口を寄せ何かつぶやいた。離れているため何を言ったのかわからないがおおよそ察しはつく。



 三人組は手を振り上げた。

「助けて…おにいちゃん」

 そこからは一瞬だった。僕はすぐに羽を開き飛ぶ。もちろん飛ぶ先はあの子のもとへだ。


「きゃあああああ」

 すぐに彼女たちは叫びあげる。なにせ三人組の一人の子の顔に留まってやったのだから。

 動揺した彼女はすぐに顔に手を当て払いのけようとするがすぐに離れるわけない。

よし、次だ。羽を開き次の標的めがけて飛ぶ。


「いやあああ」

 いい気味だな。最後の一人に向かい飛んでいきその子の顔にも留まってやる。するとよほど虫が嫌いなのか放心したように体を動かせなくなっていた。


 さあ仕上げだ。僕はもう一度飛び三人の上に雨を降らせる。

「きゃあああ」

彼女たち悲鳴を上げるがあるが一人の子が思い切り手に持っていたカバンを振り回す。突然僕の視界が暗くなる。どうやらそのかばんに当たってしまったのだ。


羽に力が入らなくなりそのまま地面に落ちる。


「はあ、ほんとに最悪なんだけど」

 三人組はそのいら立ちのままあの子を見る。まだ懲りないのか。僕は瀕死の状態だが思い切り哭く。


ミーンミーンミーンミーン

 今までで一番の音量だった。まるで防犯ブザーのようにその音は甲高くどこまでも響く。

「ちっ、うるさいわね!」

 思い切り蹴ってきたが痛みに耐えながらずっと哭き続ける。早くいなくなれとでも訴えるようにただずっと。


「な、なんでそんなに鳴いているのよ」

「ねえ、今日はもう帰らない?」

 その思いが通じたのか彼女たちは気味悪そうに僕を見ながら離れていく。



 何とかなったか。もう羽も動かせないな。ああ、もう駄目だな。意識が次第に遠くなってきた。あの子は大丈夫だろうか。あの子を見るとじっとこちらを見ている。その瞳には涙が浮かんでいる。もう大丈夫だ。僕が何度でも助ける。


 僕は最後の力を振り絞りもう一度なく。

ミーン…



鳴いた後あの子が何かつぶやいた気がしたがよく聞こえないまま静かに息を引き取る。


 

 公園の木からはセミの鳴き声が響く

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僕は蝉である 青甘(あおあま) @seiama

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