じゃじゃ馬娘はどこにもいない
「パーリナイ中失礼します!」
「そんな入り文句ある?!」
「ヒーローです!」
「「ひぃろぉぉ?!?!」」
こんな馬鹿馬鹿しいことがあってたまるか。今丁度ヒーローと悪の組織が仲良くしてたところだったのに。全員、そんな感想を抱きながら、伝えに来てくれた人の方を見た。
「えーと…どのヒーローです?」
少し強張った表情で問う雪葉。隣にいる人の関係者だと気まずいので、その変な色の目は気まずくないヒーローを望んでいた。
「おおらk」
「あーかーんーやーん!!!!!」
怒号と絶叫と悲鳴とその他いろんな声質が混じった声がして、それを皮切りにいろいろ始まった。
「とりま幹部補佐と遠隔攻撃で迎え撃て!」
「遠隔攻撃する人は雪葉についてきて!」
「それ以外は地下に行けェ!アタシは屋上、里盆は?」
「俺は建物入ったらお出迎え!!」
「俺は?!」
「今回は出んくてええ!ボス守っとき!」
「みんなー!地下隠れてー!」
こうして、正たちもなんとなく地下に潜ってしまった。
ーーーーーーーーーーーーー
「あの…」
「ん?」
「俺たち、出なくて良かったんですか?」
「ええ、勿論。……君は良くても、正くんが出たらめんどいんじゃない?」
「…確かに」
「なあ、アレ見ようぜ」
「どれ?」
「防犯カメラだよお」
「はあ?」
「ウチの高性能だから、超おもしろいよ!」
なんでも、防犯カメラの映像をチェックすると、ときどきドラマばりのすっげえ名シーンを観ることができるらしい。のんきである。
「まずは天才女児雪葉ちゃんの活躍を見てみよう!」
やはりロリとは世間一般的に大人気でありながら悪の組織にも通用する至高の存在である。
ーーーーーーーーーーーーー
「水、草、炎、毒、風!」
「順番に無効化!炎二、水二、全体に風!」
「あの水量では蒸発が間に合いません!」
「毒の濃度が高すぎる!薄めていては駄目だ!」
「…ひなちゃんと雪葉を入れ替えます!時間稼ぎをしますから、あとは任せます!」
雪葉と氷波、ここで交代。本来、時間稼ぎは雪葉の得意とするところである。普通に危ないから氷波がやっていただけで、覚悟を決めたなら雪葉が出るのがベストだ。
屋上へ着いた雪葉は、こちらに向かってくるヒーローたちを見渡した。今は先頭の二人が門を開けたところだ。
先手必勝ということで、雪葉の目はギラっと光る。これは、エスパー発動時のしょーもない信号である。気付かれたら終わりだ。
「エスパー、発動!」
時の流れと重力を変えることで妨害。さらに、前髪を整えツインテールにして表情筋マッサージをすれば、掻き乱し要員メスガキ系幹部の完成だ。
飛んできたいろんなモノを空間の圧縮で消し、自分のみ重力を軽減。ふわりと地面に降り立ち先行部隊に片っ端から催眠術と思考切断の念力をかけ、そこらへんの石を超重力で落とせば…
「雑ー魚、雑ー魚」
最初の仕事は完璧である。
ーーーーーーーーーーーー
「ッシャあ!!!」
「流石天才女児!!!」
わーっと盛り上がるオーディエンス…もとい組織メンバー。
しかし正は大いにショックを受けていた。
「みたらし流訓練のときと全く違うんですが…舐めプされてました?」
「答えはモチのロンだ。乙」
「だぁぁぁっ!!!!」
台パンに次ぐ台パン。悔しさにまかせ、中々にヒーローみ溢れる馬鹿力で台パン。流石に止められた。
「次は?次は誰?」
「それが…雪葉さんがものすごい猶予を稼いでくれたので、そんなに戦っていないんですよ…」
「そっかー。すごかったもんなー」
「アレを打破するとしたら、よっぽどの力技かゆきちゃんを凌駕するエスパーじゃないとね」
「へー。ところでお姉さんめっちゃ顔白いけど大丈夫ですか?」
「ああ。平気平気。こんなの焼けば一発だから」
「焼く……?」
「冗談冗談」
颯天は正と違うので、とってもみんなと仲良くできている。そう、コミュニケーション能力が高いのだ。
「速報です!クソみてえな力技で向かってくる
「その名は?」
「大楽水希です!」
「マミーーーー?!」
マミーーーー?!がエコーした。それを合図として、みんなにちょっと緊張感が走った。
「エスパーを水圧でどうにかこうにかして来てるっぽいです!」
「想像以上の力技!!!」
大楽家は、だいぶ脳筋家族である。それにしたってやばい。
「今は雪葉ちゃんが凌いでるけど…」
「厳しいよなあ!!俺行ってくる!」
里盆が爆速で出てった。
しばらくして、カードキーを忘れたことに気付いた彼が戻ってきて、またダッシュで去っていった。
みんながあまりにも不安そうにするものだから、一旦落ち着くためにもチャンネルは氷波率いる遠距離攻撃組に回された。
ーーーーーーーーーーーーー
「…これは厳しい」
雪葉は考えながら水を止めていた。
別に時間を止めれば問題ないのだが、チートな技にデメリットはつきものである。今、雪葉は非常に頭が痛い。もうちょっとで鼻血が出そうである。
デメリット付きほぼ万能、対するは無尽蔵な勢い任せ、短期決戦なら雪葉の圧勝だが、長期化すれば水希に分がありすぎる。
「【泡沫・彗星】!!」
「…」
六回ワープで距離を開けて勢いを殺し、重力で地面に落とす。さっきまでは三回で事足りた。
(なんなの…この異常な、人でも殺しそうな目は)
怒りと焦り、悔しさに嫌悪感、ちょっとどころか破茶滅茶に込められた殺意。これが本来あるべき母親、ヒーローの瞳だとしたら、日本は終わりの一途をたどるしかない。
「【
ずぎゅるるっと気色悪い音を立てて、草がえげつない速さで伸びた。
複数能力を持つヒーローとか中々いない。奇襲である。
纏足とは足を小さく見せるために締め付け不自由にする、昔のやっべえしグロいオシャレである。そして歩き方が変になるし進みにくくなる。
なのでそこから、歩けない→この技の場合は動きを止めると考えるのが一般的だろう。
しかし雪葉は、遊撃撹乱★大暴れタイプより、ボッチ当千★固定砲台タイプである。よってこれは…
(妨害に見せかけて攻撃を止める囮!!)
ここは動かずに攻撃しまくるが吉である。姿は見えないが、草系となればどうせ相手はヒーロー婆さん、大楽櫻子だ。
しかし頭は痛い。あと草が思いの外痛い。ロリの柔肌に無遠慮に刺さってくる。
雪葉は痛みに強い方ではあるが、幼女なので不安になりはする。なにせこのままでは雪葉はあとちょっとで壊れた盾になってしまうのだから。それではみたらし談合を守ることはできないのだから…
「ゔあ゙っっっ!!!!!」
急な痛みが走った。
前述の通り、雪葉は痛みに強い。あと我慢強い。声とか滅多に出さない。
その雪葉が叫ぶくらいには、痛みは強かった。
雪葉の足の裏からふくらはぎにかけてを、いくつもの太い棘が貫いていた。
その脚をガクガク震わせ、その喉から呻き声を絞り出す少女を、ヒーローは無慈悲に見つめるだけだった。
(救援を…いや、それは駄目だ)
ギリギリで取り繕い、雪葉は救援要請をやめた。ここで人を集めればヒーローの思うつぼだし、何より雪葉自身のプライドと迷惑をかけたくない気持ちが、それを許してくれなかった。
歯を食いしばり、ポルターガイストでたくさんの石をぶつける。
「このくらいで止めたと思うな!!」
「ウチの可愛い雪葉に何してーん!!」
めっちゃタイムロスして、息を切らせたオカマ到着。
少しの間の後、雪葉は年甲斐もあって目を潤ませた。
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