ファンシー・ファンタジー・漢
「んえ…?」
「お、起きた。中身出てないか?」
「出てないよっ…と」
気付くと長椅子に寝かされていた正は、里盆の声を聞きながら起き上がった。
「よう起きれるなあ…流石ヒーローや。動けるか?」
「へーきへーき。体は丈夫だからさ」
ただ、雪葉と合うのはクソほど気まずい。
油を売りつつ気になることを聞きたい正は、長椅子に座り直してそれっぽく呟いた。
「雪葉ちゃん、謎すぎるって…」
「せやなあ。めっちゃ真面目やしめっちゃ重いよなあ。知らんけど」
里盆は気遣いも多少できる男である。ちゃんと応えてくれた。
「知らないの?」
そしてとても意外である。偏見だけど、関西弁のキャラって情報屋とか商人感があるから、情報いっぱい持ってるイメージがあるのだ。あと普通に雪葉と仲良いし知ってるかなと期待したのだが。まあ、エセだから仕方ない。
「保険や保険。知っとってもイキって語っておもんないのはアカンやろ?特にこの手の、生い立ちとか過去の話ってオチつけにくいねん」
ああ。そっちか。
「じゃあつけなきゃいいじゃん…」
「まだ会って一週間ちょいなのにだいぶ言うようなったよな。感慨深いわぁ…てか俺雪葉と約束してるんだったわ、すまん、話せん」
「エッ?え?えぇ?今のめっちゃ話す雰囲気だったよね?」
「いや俺もとうとうお決まり過去回の始まりか思うたで。でも今君に話したら、俺のことも丸裸にされてまうから、やめとくわ」
信用ゲーとはこのことである。
ーーーーーーーーーーーーー
「ばーか、あーほ、ざーこざーこ」
「…こんのメスガキめ」
現在三連敗目。二回目で負けてぶっ飛ばされたあと、覚悟を決めるため「次負けたら口汚く罵って!!」とお願いをした正だが、これではやる気も覚悟も何もない。正はロリコンではないし、プライドもそんなに高くはなかった。
「さて、飽きましたね」
「うん…あ、でももうちょっとでいけるかもしれな…」
「幸いみたらし流訓練はステージレベルアップ制ではないので…」
「あっ、聞いちゃいなかった」
雪葉は、部屋の隅っこでぽけーっと観戦していた阿久埜と里盆を振り向き、服が可愛い方を選択した。
「りぼんちゃんと交代です!」
「簡単に言うわあ。どうせ三時のおやつで抜けるだけやろ」
「りぼんちゃん、聡い。頑張ってね」
「はいはい。おやつの報告はいらんでな、悲しくなるから」
呑気に歩いてきたオカマを、正はじーーっと睨む。あんまりにもしつこい視線に、里盆はたじろいだ。
「な、なんや、そんな見て…」
「いや、里盆さん、戦うイメージないなあって」
「そーか?」
「だって腕細いし」
「ぐっ」
「武器持ってないし」
「う…」
「背だって高くないし」
「酷…」
「すぐ動揺するしめっちゃ強いフリして噛ませみたいなキャラにいそうだし」
「…激しくディスるなあ」
「うん、ごめん」
「あと里盆でええで」
「あ、うん」
「…なあ、気まずない?」
「クッッソ気まずい」
「雑談せん?雪葉戻るまでしばらくあるで?」
「しようか」
「俺は?」
「阿久埜はミニカーでも食っとり」
こうして、車の咀嚼音をBGMに、正は自己紹介をさせられた。
「大楽正です。髪染めてる不良だぞっ!」
「お、おう…」
「…えーっと、里盆さ、どうやって戦うの?想像つかないんだけど」
正直、一番この対応されてしんどいのが里盆である。里盆なら、エセでも関西人なら乗ってくれると。正はそう信じていた。
そして正は、気になったらすぐ聞くヒーローである。ちなみに学園の授業では発動しない、日常スキルだ。
「あー、俺、能力とかないねんな。ヒーローやないし」
「え?」
「でもって、阿久埜みたいに特殊な体しとる訳でもない。さっきディスられた通り、体鍛えとる訳でもないから一人の力で戦えるものは持っとらん。じゃあ、どうすると思う?」
「え?超八方塞がりじゃん。どうすんのさ」
「『そのまんまパクリ』からの『後出しジャンケン』するんや。悪っぽいやろ?」
「ちょ〜〜〜悪。お前最悪だよ?」
「そりゃあ光栄なことで…始めよか」
「え」
誰がここで始まると思ったか。あと数分は雑談する雰囲気だったのに。
しかし始まるならばやるしかあるまい。
「【ボルケーノ・ヒーローショット】!」
「それしか技ないんか…?ちょっと可哀想やな」
「これが必殺技なの!!!」
「でも俺に撃ったらコピーの素になってまうで?」
「…」
「ほれほれ、攻撃してみいや」
「あああああ!」
挑発されれば、正はキレる。沸点は普通の中学生だ。
「加減しろ!クソ野郎!オカマ!馬鹿!アホ!オネエ!」
「オカマとオネエと女装男子と男の娘は全部別ジャンルや!!!!!!!」
変なキレどころの怒りと共に弾けるは、ヒーローの炎である。術者は、正ではなく里盆だ。
「んなっ…」
「行動しーっかりパターン化したヒーローさんは、相っ当お困りの様子やなぁ〜?」
「うるさいうるさいうるさい!!」
ぽかぽかと音がしそうな、間抜けなパンチ。里盆はピンヒールのまま涼しい顔で躱している。隙だらけに見えるのに、攻撃は一切、彼の体に届かないのだ。
(いや待てよ?今ので里盆はめちゃくちゃ油断してるはず…意表を突いて思いっきり押し倒せばどうだ?…うん。体格差もそこまでだし、いける!)
まずは、ぽかぽかぱんちで更なる油断を誘う。そして…
「おわっ」
ピンヒールはバランスが悪いし疲れる。キックを避けるときに、里盆がちょっとフラついた。そこで、一気に飛びかかる。
「もらった!!」
「俺の方が一枚上手や」
びたーん!と、デジャヴな、人間と床の衝突音が響く。
里盆が何をしたか。まず彼は、バランスを崩したフリをして正を誘った。そして、正の体が浮く瞬間、そのナリからは想像できないバク宙をしたのだ。当然、その足は正に直撃する。そして、後先考えなかったヒーローはぶっ飛ばされるのだ。
「なんで筋肉なさそうな顔してんのにそんなことできるの…」
「いや…芸術点狙わないなら逆立ちもバク宙もできるやろ」
「できねーよ!!!」
「まあまあ、そうカッカせんと。か〜ら〜の〜?」
「え…な、に…」
「胡椒爆弾ッ!さん、に、いち…」
「やめろ!」
誰が大爆発声量で止めたかと思えば、今まで見ていただけの阿久埜であった。
「胡椒は…なんつーか、よくない」
「兄ちゃん…」
「だから兄ちゃんではない!」
「だって、僕が胡椒爆弾嫌いなの知ってる人なんて中々いないし」
「え?!…なんかすまんな。ええ雰囲気出とるし、過去回いっとくか?」
「あ、結構です」
そう、正は胡椒爆弾に多大なるトラウマがある。ちっちゃいときに、胡椒爆弾でいじめられていたことがあるのだ。幼稚園で、最も暴れん坊だった奴に目をつけられてしまったときに。
猫を愛す猫アレルギーの正はアレルギー性のくしゃみには慣れているが、胡椒爆弾のくしゃみに耐性はなかった。吐かれた暴言は当時の理解力の弱さによって記憶していないが、酷い目にあったことは覚えている。
そして、それを学園長先生にチクったのは、兄だったはずだ。
よって、正はトラウマよりも優先すべきことに気が付き、目を煌めかせる。
「やっぱアンタ絶対僕の兄ちゃん!」
「仮にそうだとして、それが兄に対する口のきき方か?!」
「実際の兄弟なんてこんなもんだよ!そうでしょ?!」
「いや…俺も知らんけど」
「なにサボってんですか。お母さん来ましたよ?」
雪葉に凍えるような視線で睨めつけられ、早々に正は帰り支度をした。施設の門までは、真面目メガネスタイルの阿久埜に送ってもらう。
ーーーーーーーーーーーーー
「あれ?マミー、門にいるんじゃなかったの?」
「いや…お姉さんいないかなーって」
「いるにはいますけど、今は出れないんです。体弱いから」
「そうなの。…うーん」
首を傾げながら考え込む正の母。かなり長いこと考えていたので、正は心配になってきて聞いてみた。
「どしたの?なんか変なとこある?」
「どこか〜で見たことある気がするの、そのメガネの人。ちょっと失礼」
カチャッと彼のメガネを外し、至近距離で男の顔面を見続ける人妻。一応言っておくと、阿久埜は人妻趣味などない。
「あの。俺の顔そんな変です?」
「ねえ、もしかして、スポーツカーと唐揚げが好きなんじゃない?」
「好きですけど…車種は?」
「G○−R、でしょ?
「あ、そうだ!僕らの名前、同音異義語じゃん!」
「………あ、ああ…」
阿久埜は、自分を真と呼ぶ女のことを知っていた。
ぜんぶ、ぜんぶ、おもいだした。
「ゔあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙っ!!!!!!」
ほぼ文字にならない絶叫をあげながら、『真』は頭を抱え、うずくまる。激しい痛みと、衝動を、必死に堪えているようだった。
「なんやぁ今のネットミームになりそうな声……って阿久埜どしたん?!?!おい!」
「…やはり裏切りましたか!そろそろ白餅は燃え尽きますよ」
一気にヘイトは正へいく。
時は止まらない。動揺した雪葉は、エスパー云々のことを考える余裕がないようだ。
その刹那、蒼い炎が全員を取り囲んだ。
「オネーサン、ウチのに何してくれてんの」
そして、ヤクザみたいな口調のギャルが現れた。
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