レベルの低い頭、レベルの高いオカマ、そして銭ゲバ

「まさぴよりん、探し物?」

「うっわ……颯天か…じゃなくて、颯天、急になに?」

 夕方、自室の棚をひっくり返す勢いで探し物をしていた正は、誰かの声で手を止めた。事情を説明するととんでもないことになるため、最初に「うっわ」と声が出た。

「今取り繕うの?」

 割と辛辣に突っ込んでくる少年颯天は、正に「まさぴよりん」とふざけたあだ名をつけ、唯一こんなに軽率に接してくる学友である。

 ちなみに、颯天は愛すべきバカなどではなく、「うわー今回やばいわー」と言いながら平均点以上を取ってくる奴だ。どちらかと言えば、正の方が成績は振るわない。どうせエレベーター進学だしヒーローとして働くのだから問題ないのだが。


(え?僕ヒーローやめる可能性あるんだよね?え?このままの成績じゃやめるにやめられないんじゃ…)

「颯天、うちにおもちゃの車ってある?あと得意教科って何?」

 方向性が違いすぎる二つの質問に戸惑いながらも、颯天は返してくれた。

「まさぴよりんの兄ちゃんの部屋に、けっこうあったはずだよ。俺の得意教科…うーん、国語?」


 国語は正もマシな方である。言うて平均点の半分くらいだが、他よりは全然マシだ。数学なんか一桁常連だし、理科の過去最高点は43点なのだから。そろそろ全教科合計100点だって夢じゃない。

「ありがとう!次の補習、一緒の机でな★」

「ヒーローっぽく変な約束すなー!教えるから!」


 後ろからなんか聞こえるが、今の正の第一優先事項は勉強じゃない。

(とりあえず、ミニカーをを27台探す!)

 違う、21台。うっかりでもバカ営業でもないなら、流石に心配である。


ーーーーーーーーーーーーー


「おっ、トミ○!…って空箱かあ。…これは戦車かな?」

 久しぶりに入る兄の部屋は、物置き状態である。いなくなって10年くらい経つのだから、当たり前っちゃ当たり前だ。

 なにはともあれ、見つかったミニカーの数、19。一人の少年の部屋での発掘にしては上出来だ。

 そして正の部屋には、なんと一台もなかった。思い出してみれば、小学生のときにカッコつけて捨てたか、売ったかした気がする。すごくもったいない。


「…おもちゃ屋さん行こうかな」

「まさぴよりん、ミニカー探してんの?俺いっぱい持ってるよ!」

「颯天ぇ…」

 今までふざけた発言の目立っていた颯天が、ここにきて大活躍。友とは頼ってみるものである。


ーーーーーーーーーーーーー


「はい!風鈴颯天の在庫処分セール福袋だよ!一袋限定、500円!」

「…」

 風鈴颯天は、銭ゲバである。中身はたくさんのミニカーだし、実際お得なので結局購入するのだが、ちょっとだけ詐欺の気分を味わえるというオマケ付きだった。

 タダでくれると勘違いしていた正も浅はかではあったが、さっきの時点で教えて欲しかったというのが正直な感想だった。

「はい、200円。残りは明日、購買部で宇治抹茶クリームパン二つ買ってあげる」

「え〜ブルーベリージャムパンだろそこは」


 値段は同じなので、颯天の好みなど知ったことではない。いつもより多く宇治抹茶クリームパンを買ったほうがいい。ブルーベリージャムパンは人気ですごく並ぶから。

 そして何をおいても、抹茶は正の大好物なのだから。ちなみに、宇治金時のかき氷は大好きだが、夏は嫌いである。


 正は長袖族なので、半袖&ノースリーブの日本国民 IN SUMMERの中で目立ってしまう。流石にヒーローじゃないときまで目立ちたくないので、夏はあまり好きではないのだ。


「…なにこれ?」

「これ?ガラガラくじで当てた!」

 正が気になった迷車は、間抜けな猫の顔がくっついた乗用車のストラップである。車体はいい感じなのに、その妙に力の抜ける顔のせいで、美しいほどにパチモンらしさが醸し出されている。

「旅行したときにやったんだけど、それ当てた瞬間に周りのおっちゃんたち咽び泣いてた!多分いいやつ!」

 ビシッと親指を立てる颯天。しかし、ストラップ相手にガチるおじさんたちとそれを引き当ててしまうガキというこの構図。なるほど価値が高そうだ。界隈では有名なやつなのだろう。

 その後も颯天に色々教えてもらったが、正の頭に入ったのは猫顔の珍品だけだった。

 とにかく、金策しなくても良くなったので、正は喜んでおくことにした。

ーーーーーーーーーーーーー


「おお…うおおお!これは!おいこれ非売品だぞ!?どこで手に入れた!」

「知り合いにもらった」

「そっかあ、お前友達いたんだあ…じゃ、頂きますわ」

 阿久埜は、口を開け、猫顔ミニカーを噛み砕き、嚥下。…嘘だろって?否、これが今正の見た全てである。

「あー車うめえ〜っ!!」

「は?」

 車が美味い?嘘だろおい。正の頭はしばらくの間、この二つの文しか回らなかった。

「俺は【半人造人間ホムンクルクルス】だからな!車を食べるんだよ」

「ほむんくるくる?ホムンクルスじゃなくて?」

「ホムンクルクルス!元は人間だけど、手術して今は体の約7割が機械なの!機械とか道具食べると強くなるの!」


 ここは、阿久埜が所属する悪の組織、【みたらし談合】の本部。地図をもらって行ってみれば意外と近く、正の家から全速力で十分ぐらいの場所に隠し通路があった。さらに中の迷路をさまよい、途中で阿久埜に助けられて現在に至る。

 それにしても施設がピカピカで新しい。しかも名前のイメージ通り、ゆるい笑顔あふれるアットホームな職場である。決してブラックだという表現ではない。阿久埜も、時々すれ違う人間?と、「早くジープ特集返せよなー」とか、「あ、待て!お前エンジンパーツのプリン漬け食っただろ?!」とか喋っていた。


「お、阿久埜やん!お久やな!阿久埜だけに!」

 おもんないなと思いながら正は声の主を振り返る。声からするに青年…

「うぇっ?!何コイツ」

「お、なんやクソガキぃ。やるかぁ?」

「…コレは里盆りぼん。エセ関西弁とおもんないギャグとキツい服装が特徴の、れっきとした男だ」

「コレとはなんやコレとは。…よろしゅうなー」


 正は基本、多様性に配慮し、男の娘やロリショタや獣人等にもある程度の理解を示しているヒーローである。


 オカマは守備範囲外だった。いや、オカマは化粧してなんぼだから、オカマとは別次元の何かだろうか。なんてったって、この里盆とかいう男、シンプルに美人である。

 よくいるツリ糸目おかっぱマッシュの、黒髪に白い肌がよく映えるイケメンだ。リボンとフリルとポンポンがあしらわれた白いワンピースと、白い網タイツというファッションでなければ、ただのイケメン幹部に見えただろう。

 この服装なのに喉仏ガッツリ見えるし仁王立ちなのは謎である。せっかく華奢な体型なのだし、髪伸ばして内股にしてりゃもっと可愛く見える気がするのだが。


「じゃ、また明日」

「えっ?もう帰るん?今ならワイが案内したるで!まだ幹部はいるしな!」

「うーん…まあ、一応敵だしね」

 普通にこの得体のしれない兄ちゃんと同レベルの奴とこれから会うのは気が進まなかった。


ーーーーーーーーーーーーー


「あ、阿久埜が兄ちゃんなのか確かめるの完全に忘れてた…」

 家に帰って太郎を撫でながら、正は己の頭脳の不足を呪った。

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