研究学園都市つくばの秘密 ~共同溝と都市ゲートと無限遠点

@tallzelkova

共同溝と都市ゲートの秘密

筑波大学のキャンパスにある研究棟。その地下に続く薄暗い通路を、白衣を着た男性が足早に歩いていた。彼の名は二峰教授、筑波大学で長年教鞭を取っているベテランの研究者だ。後ろには、小柄で華奢な女性、最近彼の研究室に助教として着任した雪乃さくらが必死にその背中を追いかけていた。

「筑波大の地下にこんな通路があるなんて……」さくらは驚いた声で呟き、その声が通路の壁に反響してかすかに戻ってきた。

「水、ガス、冷暖房、電気などのインフラ配管や配線はこの共同溝に集約されている。工事の際に路面や地面の掘り返しがないのがメリットだな」と二峰教授は淡々と説明した。さくらはその言葉にうなずきながら、興味深そうに周囲を見回した。

彼女にとって、この地下通路は未知の世界だった。研究室とは異なるこの場所に、どんな秘密が隠されているのだろうか。

二人はさらに奥へと進み続けた。通路の壁のコンクリは古びていて、配管の上にもややホコリが積もっていたがきちんとメンテナンスはされているようで、破損個所はなく、照明もちゃんと点いていた。


やがて二峰教授は照明がやや暗くなっている箇所で足を止めた。

「知っての通り、つくば市にはおよそ150の研究機関があり、1万人以上の研究者を有する、我が国最大の研究学園都市だ」

壁に手を触れる。カチリ、という小さな音がして、すぐ傍の壁がかすかなモーター音とともにスライドし、薄闇の中に光が差し込んだ。

「そしてそれと同時に―」

扉の向こうに広がる部屋には、中央に置かれたテーブルがあり、その上には回路のような図が光を放って浮かび上がっていた。部屋の中は冷たく静まり返っており、まるで時間が止まっているかのようだった。二峰教授とさくらはテーブルの前に並んで立ち、その光景を見つめた。


「筑波山からの霊脈を使い、東西南北に四神の守りを配した魔法都市でもある」


と二峰教授は静かに語った。その言葉にさくらは驚きの表情を浮かべた。


「君も見たことがあるだろう。高エネ研の北側や、土浦学園線の東側に立っている3本揃えの柱がそれだ」

「あ……、都市ゲート!?」さくらは驚きの声を上げた。彼女は何度もその柱を目にしていたが、それが何を意味するのかは知らなかった。

二峰教授は静かに頷いた。「自分の代でこれを起動するとは思わなかったがね」と言いながら、回路に手を触れる。その瞬間、回路上を光が走り、柱を示すと思しき箇所が一層強く光った。部屋全体が輝きに包まれ、まるで別世界にいるかのような感覚に陥った。


同時刻、地上では道路の脇に立つ3本の柱から光が放たれ、夜のつくば市を照らし出した。まるで都市全体が生きているかのような壮大な光景が広がった。


「これで、しばらくは凌げるだろう」と、二峰教授は安堵の表情を浮かべた。

「凌いで……それからどうするんですか?」さくらは不安そうに尋ねた。

「このまま共同溝伝いに移動して、『無限遠点』に隠してある武器を取りに行く」

「む、無限遠点?」

「学生たちが話していただろう、『東大通りと西大通りは、平行に走ってるのに北の方で交差する』と」

「つくば民の定番ネタじゃなかったんですか?」

「この街はすごいよ。そんなやり方で別次元につなぐなんてね……。45度に曲がった道は絶対に許せないが」と、二峰教授は苦笑いを浮かべた。


(終)

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