第34話 長かった一夜の勝者は

『あぁッ…………クッソが!やってやんよ!あんまり僕を舐めるなよ!』


 スカイによる宣戦布告を受けたディザイナーズは吹っ切れたように叫び、勢い良く空に手を掲げた。


『時よ止まれ!!!!』





『グヘェ!!!?』


「……レイヴンと比べたら大したことないじゃない」


 盛大に叫んだかと思えば、次の瞬間にはディザイナーズは空中から地面へと叩きつけられていた。代わりにスカイが宙に浮いており、余裕そうにディザイナーズを見下している。


「これならまだこの前の岩男の方が強かったんじゃない?」


『クッ…………この野郎……インチキしてるくせにッ……!!』


「貴方の方がよっぽどインチキじゃない」


 煽るスカイに悔しがるデザイアン。どうやら完全にスカイが優勢なようだ。


「……悪いことは言わない。だからとっとと帰りなさい。もうメッポのことは諦めるのね」


『このまま帰れるかよ!せめてお前をぶん殴らねぇと気が済まねぇ!』


 圧倒的な相性差に挫けず、再び立ち向かおうとする幼い男子のようなディザイナーズ。それをスカイが呆れながらも迎撃しようとした瞬間、ふたりの間の空間に亀裂が走った。


『だから鍛練が必要だと教えておっただろうブルヴェ』


 亀裂は広がり、その中からまるで魔法使いのような見た目の老婆が現れた。仰々しい杖を持ち、デカイ帽子をかぶっている。おとぎ話とか絵本の悪い魔女そのものだ。


『うっ……うっせぇババァ!まだ僕はやれる!邪魔すんな!』


『…………どこがだい。達者のは口だけだろうに。大人しくしてな』


 魔女は子供のディザイナーズを嗜めると、いきなりスカイに向けて杖を向けた。


『【竜頭ヘッド】』


「なっ!!!?」


 その瞬間何もなかったはずの空間からドラゴンの頭部が出現。スカイに渾身の頭突きをお見舞いした。


「スカイ!?」


「ッ…………フラワー!構えてください!次が来ます!」


 その頭突きをモロにくらったスカイは吹き飛んでいった。それをフラワーが心配したが、冷静なアンバーは次の攻撃に備えるように吠えた。


『【竜棘ニードル】』


 間髪入れずに魔女はフラワー達に杖を向け、今度は無数の棘のようなものを放った。どれもこれも人間サイズくらいある。あんなの食らったら普通に死ぬぞ。


「くぅっ…………!!」


『ほう……ではこれはどうだ』


 アンバーがなんとかバリアを間に合わせて棘を防ぐ。けれど魔女の攻撃の手は止まることを知らなかった。


『【竜尾テール】』


「えっ……後ろ!?」


「なっ!?」


 バリアを張っていたアンバー達の後ろからドラゴンの尻尾のようなものが現れ、ふたりをまとめて海の方へと凪払った。


『惜しかったな。次からは全方位で張るといい』


 海へと吹き飛ばされたふたりは水飛沫を上げて着水。突然現れた魔女はたった1人で3人まとめて蹴散らしてしまった。


『……ではまた会おう魔法少女達よ』


 魔女は残された俺をまじまじと見つめ、そう言い残して空間に開いたままだった亀裂へと帰ろうとした。


「…………待ちなさい!!」


 しかしそれを邪魔するように吹き飛ばされたスカイが猛スピードで突っ込んでいった。帰れと言ったり待てと言ったり忙しいやつだな。


『ふむ…………【竜頭ヘッド】』


 魔女も呆れたようにドラゴンの頭を召喚してスカイにぶつけようとした。


「それはもう!」


 スカイはその頭突きを真っ正直から受け止めてからおもいっきりぶん殴り、見事に打ち破ってみせた。


『やるではないか。ではこれはどうだ?【真剣スラッシュ】』


 けれど魔女は動じることなく次の攻撃をしかけた。今度はドラゴンではなく巨大な剣が現れ、スカイ目掛けて振り下ろされた。


「え、まっ…………きゃあ!」


 予期してなかったのだろう攻撃にスカイは反応出来ず、その巨大な剣によって砂浜へと叩きつけられた。


『…………丁度良い。良く覚えておくといいブルヴェ。こういう相手との戦い方を』


「くっ…………このくらい……―――」


 叩きつけられたスカイは諦めることなく、巨大な剣を力付くで押し返そうとしていた。

 だが……


『【真槌ハンマー】』


 突然剣が消え、かと思えば今度は巨大なハンマーが現れてスカイへと襲いかかった。


「ぅがっ…………!」


『まずは心を折れ。絶え間なく技を仕掛け、対処などさせる暇を与えるな。どう足掻こうとも決して敵わないという力の差を見せつけろ。心さえ折れてしまえば後はどうとでもなる』


 度重なる攻撃で流石に満身創痍なスカイに向け、魔女は容赦のない追撃をしかけた。


『【真槍ランス】』


 次に現れたのは巨大な槍。あれをくらったらスカイはただでは済まない。俺は全身に力を込め、急いでスカイの元へと向かった


『こんのっ……フッ!!』


 スカイに向けられていた槍の先端に渾身の飛び蹴りをかますと、槍はガラスが割れるみたいに砕け散った。


『……ほう。やるではないか』


『見逃してあげるから!とっとと帰りなさい!』


 俺は精一杯強がり、魔女へと叫んだ。今この状況で俺一人で勝てる可能性はない。魔女の方はともかくとして、子供の方はスカイ以外対処出来てない。全滅だけは避けなくちゃいけない。


『貴様とも交えてみたかったのだが……良かろう。今日は痛み分けだ。帰るぞブルヴェ』


『はぁ!?なんでだよイグリエガ!このまま倒せるだろ!』


『ゼッド様がお怒りだ』


『ッ…………あーーもう分かったよ!クソが!』


 ふたりは言い争いながら亀裂の中へと消えていった。すると何事もなかったように亀裂は消え、俺はようやく一息つくことができた。


『長い…………本当に長い夜だったわ……』


 紆余曲折ありはしたものの、最終的には俺達の完敗という形でこの日の戦いは幕を閉じるのだった。

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4人目の黒い魔法少女の正体が俺の幼馴染みにバレるまで @HaLu_

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