第33話 告白の押し付けは女の子の特権
「そうこなくっちゃ!じゃあ行くわよレイヴン!私が最強の魔法少女よ!」
スカイは宣言の共に宙を蹴り、俺に向かって突進してきた。お得意の魔法連射はしないらしい。きっとレイヴンと同じ土俵で勝ってやろうということなのだろう。
『フッ!』
「ッ!速す……ぐっ!?」
空中に足場を作り、俺は迎撃する構えを取った。そして流星の如く突っ込んできたスカイの顔面めがけて挨拶代わりのハイキックを放つ。スカイはなんとか反応し、顔の横に腕を構えることでガード。だが勢いは殺しきれず、そのまま横に吹っ飛んだ。
『……甘い。近距離戦で勝てるなんて思わないことね』
「ぐぬぬ…………まだまだぁ!」
諦めの悪いスカイは再び俺に向けて突進。同じようにカウンターで蹴り飛ばしてやろうと構えたのだが……
「それはもう見切った!」
『ッ……!』
「取った!」
蹴りが当たるギリギリでスカイは急停止。そして息つく間もなく再加速。油断していた俺の背後に回ってパンチを繰り出してきた。
『甘い!!!』
「うそっ……!?」
俺は宙に作っていた足場を消し、浮遊。そして空中で無理矢理体を捻って回転。背後からのパンチを棒高跳びでもしてるかのように避ける。その回転の勢いのまま、驚愕しているスカイを砂浜へと蹴り落とした。
『…………満足したかしら』
砂浜へと叩きつけられたスカイに問いかける。けれどこれで諦めるような女ではないことは俺が一番理解していた。
「まだ……まだまだぁ!」
おもいきり叩きつけられたというのにスカイはまたまた突進。俺はソレを今度は真っ正直から受け止めてやることにした。
『ふんっ!』
「ぐっ…………ぐぐぐ……!」
互いの両手をガッシリと掴み、空中で押し合う。単純な力比べ。馬力勝負だ。
「なんっ……で…………!」
スカイは必死な表情でなんとか押し込もうとしてくる。スカイは微動だにしない俺を睨んできてはいたが、なんとか顔に出さないようにしているだけで俺も全力で押し返してはいる。堪えられてる理由なんて単なる意地でしかない。
『私に……本気で勝てるとでも…………!』
「ぐぅっ…………!」
悔しそうに唸るスカイ。しかしパワーは段々と増してきている。
「大体!貴女は鴉谷の何を知ってるの!」
『何って…………ある程度のことは知ってるわよ!』
「はぁ!?なにそれマウントのつもり!?」
『貴女から吹っ掛けてきたんでしょ!』
自分から話題を振っておいてマウントとは言いがかりも良いところだ。しかも俺の事なんだから知ってて当たり前なんだよ。バカ美空が。
「だったら鴉谷が好きな魔法少女は誰か知ってるでしょうね!」
『それがどうしたってのよ!』
「あっ知らないんだ!だったら教えてあげる!鴉谷はスカイの事が好きなんだから!」
『へ…………』
スカイからの的外れな情報を聞いてしまった瞬間、どういう訳だか俺の心臓が跳ねた。
そもそもあの時だって最初にレイヴンだと言ったはず。それを美空がごねたから消去法で選んだだけだ。だというのに自信満々に、さも事実であるかのように俺に伝えてきたスカイの瞳はとても綺麗で、見ているだけで吸い込まれそうに……
「隙ありっ!!」
『しまっ…………!』
スカイの言葉に気を取られ、全身から力が抜けた隙をつかれて俺はついにスカイに押し負けてしまった。スカイは勢いのままに地面まで俺を押し込み、最終的には砂浜に背をつけた俺の上に馬乗りの姿勢になった。
「さぁ認めなさい!鴉谷が好きなのはスカイで、力比べも私の勝ち!勝負ありよ!」
『バカっ……それやめなさいっ……!』
「……それ?」
『その…………好きって……やつ……』
「……そんなに悔しいんだ。レイヴンも可愛いところがあるじゃない」
スカイによって完全にマウントをとられているのに加え、俺の体は言うことを効かなくなってしまっていた。力を込めようにも抜けていく。スカイの顔が視界に入る度に心臓がうるさくなる。やばい。そんな気なんてなかったのに。強制的にコイツを意識させられる。
「あらあら~…………」
「……どしたのアンバー?」
「いえいえ~。面白いな~と」
そんな追い詰められている俺を見て、アンバーは楽しそうにニヤニヤしてやがった。こちとら結構なピンチなんだぞ。このままだと次はお前らの番なんだぞ。
「さぁレイヴン。負けを認めなさい。今ならこれからも鴉谷とたまに遊ぶくらいは許してあげるわ」
『くっ…………』
このまま抵抗して、また余計なことを言われたら今度こそ体が完全に屈するのがなんとなく分かる。悔しいが負けは負けだ。
『はぁ…………分かったわよ……私の負け。貴女が一番強いわ』
「!!!!」
俺は素直に負けを認め、スカイが欲していたであろう言葉を伝えた。するとスカイはおもむろに立ち上がり、フラワー達に向けて元気良くピースサインを作った。
「見た2人とも!!私が!!レイヴンに勝っちゃった!!」
「……すごいですね~」
「う、うん……すごい……」
「ふふん!!」
アンバーとフラワーはスカイを適当にあしらっていたが、本人は機嫌良くふんぞり返っていた。にしてもどうしたものか。なんか緩い空気だがスカイは今は敵側だ。このままでは全滅ってのもありえる。
「…………さて。そこのディザイナーズ!」
『ん?あぁやっと終わった?ほんっとに待ちくたびれたんだけど』
「それは悪かったわね!」
『じゃあ後はそこの2人だな。もうあんま時間かけんなよー』
退屈そうにあくびをしていたガキが今度こそフラワー達を倒すべく、スカイに指示を出した。さっきまでのほほんとしていたフラワー達は一瞬で臨戦態勢をとったのだが……
「…………なんで?」
『…………は?』
スカイの間抜けな返事によってシリアスな空気はまたしても長続きしなかった。
『なんでって…………ソイツらはお前の敵なんだから当たり前だろ』
「………………なんで?」
『……よし。話すだけ無駄だな。そこの2人を倒せ』
ついにスカイとの会話を諦めたディザイナーズは、スカイを指差してそう命令した。
しかし……
「え、嫌……」
『は…………なんで……』
スカイはあっさりとこれを拒否。拒否されてしまったディザイナーズも驚愕の表情を浮かべていた。
「なんではこっちの台詞。あなたの命令を聞く意味が分かんない」
『い、いやいやいや!お前のその力は僕が目覚めさせたんだぞ!完全に支配下にあるはずなんだよ!』
「……いや、これは私自身の力だけど?」
端から聞いていた俺でも今のスカイの新しい力の理由はなんとなく分かってる。多分あのディザイナーズが言う通り、アンバーのような純粋な覚醒ではない。敵側の力が混じった姿のはすだ。
それなのに、スカイは恐らくそれが理解出来てない。そして理解出来てないだけならまだしも、勝手に都合の良い解釈をしている。更にはその解釈が事実かのように俺達に押し付けてきている。あまりにも
『ッ……………………!』
スカイの
ん?待てよ。命令が効かないってことは、コイツまさか素面で俺達に襲いかかってきてたのか?自分が一番強いって証明するために?だとしたら本当にヤバいぞ?
「さぁ行くわよふたりとも!あのディザイナーズをギャフンと言わせてやるんだから!」
「……ですね~」
「うん…………」
自分が最強だと示せて満足したのか、意気揚々と場を仕切り始めてフラワー達の隣に並び立とうとしたスカイ。けれどフラワー達の心はこのドタバタで完全に冷めきっており、スカイから2歩……いや5歩下がった位置で並んでいるのだった。
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