魔女狩りに合わないように静かに暮らす名もない子供たち

@rinfuji

第1話 不安

「傘もったの?」


「あ、忘れてた。ごめん、姉さん。取ってくれる?もうブーツ履いちゃった。」

弟は、甘えた顔で姉を見上げた。


「きっと暗くなる前に降ってくると思うから、はい。」

姉は小走りで傘を取り、弟に渡した。


「ありがとう、いってきます!」

満面の笑みで姉を抱きしめて、弟は走って出かけた。


「ほんとうに!!!ほんとうに気をつけて、、、。行ってらっしゃい。雨が降ってないなんて、この街に来て初めてじゃないかしら。」

姉は淀んだ空を見上げながらふと呟いた。


この街は、一年中雨が降っていて、朝が遅く夜が早い。

常に空気は湿っていて、木でできている家はカビと苔が生えている。

雨が降っていて昼間でも暗いが、寒くはない。

姉弟達がこの街に住み着いて3年になるが、雨が止んだのは初めての体験だった。


姉は出かけた弟とは違う、もう1人の弟に話しかけた。

「今日の夕ご飯は久しぶりに、たまごを食べれるよ。私、嬉しいな。」


「僕も嬉しい!少しオレンジ色に作ってくれる??」

もう1人の弟は、半熟が好きなようだ。


他愛もない話をし、壁に新しく生えた苔を取った後、2人は地図を見始めた。


「次の候補は2ヶ所あるんだけど、どっちがいいと思う?」

一人用のテーブルに広げられた地図は、テーブルからはみ出ていた。


「僕はどっちでもいいかな。この街は静かでとっても気にいってるから、できるだけ長くここに居たいんだけどね。姉さんもそう思ってるでしょ?」


「そうね、でも3年なんて今までなかったじゃない。だから落ち着かなくて。静かすぎて、不安になるの。」


「みんな他人に興味がないからだよ。それに、暗くて傘や雨具を着ているから顔だってよく見れない。誰も僕らのことを認識してないからね。」


「まぁ、そうね、、、。」

姉は漠然とした不安を抱えながら、3年ぶりに見た乾いた空を見つめた。

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