【死の宣告】掌編小説

統失2級

1話完結

「あなたとあなたの恋人は2028年の8月2日に死にます」その占い師は深刻な顔で美紀に告げる。美紀は唖然として黙っていたが、連れの蘭紗が怒りを顕にする。「いい加減な事言って金稼いでんじゃないよ、美紀、帰るよ」そう言うと蘭紗は料金の4千円を机に叩き付け、美紀の手を取って退店を促す。美紀は占い師にもっと話を聞きたかったが、それは叶わず、蘭紗の剣幕に圧倒されて、占い店を後にするのだった。


ファストフード店で美紀と蘭紗は向かい合って座りながら、ハンバーガーを頬張る。「本当に占いなんて全部インチキなんだから、美紀も気にする事ないよ、あのジジイも思い付きで適当な事言って金を稼いでいるゴミ虫みたいなもんなんだよ、分かった? 美紀」「うん、ありがとうでも心配しないで、私はあの占いなんて全然気にしてないから、安心して」美紀は笑顔で返事をする。だが、実際のところ、美紀の心は4年後の死の宣告をされたばかりで深く沈み込んでいた。「本当にごめんね、私が興味本位で占い師に運勢を見て欲しいと言い出したばかりに、美紀に嫌な思いをさせて、だから、その償いにここの食事は私に奢らせて」「『あなたはもう直ぐ死にます』と言われる度に、食事を奢って貰えるなら、死の宣告も案外悪くないかもね」と美紀は本心とは裏腹にここでも笑顔で返し、蘭紗を安心させようと努めた。


美紀は本来、占いを信じる人間では無く、朝の情報番組の占いコーナー等はいつも聞き流して(つまんね)と辟易していたくらいだった。しかし、何故か人生で始めて直に占って貰ったあの占い師のあの死の宣告が脳裏からこびり付いて離れず、美紀の心を掻き乱していた。とは言え、蘭紗には相談出来ないし、恋人の楓太にも占い程度で相談する訳にもいかない。1人で思い悩んでいた美紀だったが、その内、自分だけでは解決出来ないという結論に至り、日を改めて今度は1人であの占い店を訪ねてみる事にした。


美紀がその占い店を再度、訪れたのは死の宣告をされた灼熱の昼過ぎから4日後になる水曜日の19時を少し回った時間帯だった。しかし、店の前まで来てはみたものの、立て看板は出ておらず、店の入口には『平素より当店をご愛顧いただき、誠にありがとうございます。この度、7月23日をもちまして、当店は一身上の都合により閉店する事となりました。長きに渡り皆様方にご愛顧頂いた事を心より感謝致します』という丁寧な文章の張り紙が掲示されていた。(客には簡単に死の宣告をする癖に閉店の知らせだけ、丁寧かよ)と気休めの為に心の中で呟いてみるが、美紀の不安は占い師と会えなかった事によって、より一層強まるのだった。


美紀と蘭紗を占ったあの中年の占い師は当たらない事で有名な占い師だった。いつも間違った占いばかりしていて客も離れて行き結局は廃業に追い込まれたのだ。あの占い師はヘボ過ぎてギャンブルでの借金が400万以上もあった。それくらいのヘボ占い師だったので、美紀への死の宣告も当然の如く間違った占いで、実際の2028年の8月2日に死んだのは、美紀と楓太以外の人類80億人だった。その大虐殺の犯人はカリタン星人と名乗る灰色の肌を持つ地球外生命体で、彼等は人類の美的感覚から見ても美しい外見の者たちだった。彼等は僅か27分で80億人を殺害したのだ。人類大虐殺を生き残った美紀と楓太はカリタン星人に捕われ、地球から4万光年離れたカリタン星の宇宙動物園の可成り広めの檻に入れられて、チンパンジーの番とゴリラの番とオラウータンの番の檻と並んで展示される事となった。最初はプライバシー侵害に苦しんでいた美紀と楓太だったが、次第に耐性も付いて行き、カリタン星人に見られながらSEXするのも平気になっていた。と言う訳で2人は檻の中でそれなりに幸せに暮らし17人の子供を設けながら、カリタン製の完全栄養食のお陰でそれぞれ160歳以上まで健康的に生きる事となるのでした。


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