いつかの朝

 遠くで何か音が聞こえる。

 耳から頭の奥まで響くような金属音。

 

 「ううぅ...」

 

 少し気だるい体を起こし、音の正体へと手を伸ばす。音がピタッと止まった。


 「もう朝か...」


 時計を確認すると、6時ちょうどである。

 今日は、2度寝もせずに起き上がることができたようだ。

 

 翔の自室は2階にあるため、階段を降り、洗面所に向かう。

 顔を洗い、その次に寝癖をなおし、髪を乾かす。 

 乾いたのを確認し、髪を軽くセットしてから、制服に着替える。なんでもない朝のルーティンである。


 「おはよう」

 

 そう呟きながら、リビングのドアをあけ、電気をつけた。

 誰もいないリビングからは、当然、なんの返事もない。

 母は、いつも自分より早く家を出ていて、朝に顔を合わせる事の方が珍しい位である。

 4人用のダイニングテーブルの上には、弁当箱と母からのメモがあった。

 

 「おはよう 冷蔵庫に昨日の夜の残り物と味噌汁が残ってるから食べちゃって 弁当作ってあるので忘れないように→」


 メモを読んだあと、冷蔵庫から残り物のお皿を取り出し、電子レンジに放りこんだ後、味噌汁を温めるために、ガスコンロに火をつけた。

 

 「いただきます」


 テレビをつけ、朝のニュース番組を流し見しながら、1人で黙々と朝ご飯を食べる。「今日の天気は午後から下り坂...」「今日の運勢は...」そんな声がテレビから聞こえてくる。

 

 

 両親が離婚したのは、中学生1年生の終わり頃だった。どうして離婚したのか、両親どちらにも全く聞かされていないが、きっと自分のせいだと翔は思っている。

 

 小学生の頃、イジメにあっていることを両親に打ち明けた。もちろんどちらとも親身になって相談にのってくれた。両親の愛を嬉しく感じた。

 すぐに転校するかどうか、学校にイジメの事を報告することなどを両親に提案されたが、翔はどちらもしなかった。

 1人で逃げてしまう事は簡単だったが、それをすれば、イジメの矛先が、関わった自分以外の人間に向いてしまうと思い、それは嫌だと思った。何より、周りに流されずに助けてくれた信也に心配させたくなかった。これからも大切にしたい親友だから。


 その後両親と色々話し合った結果、中学は少し家から離れた学校に行く事(イジメを継続させないため)、怪我をするような事があれば、すぐに自分たちに相談する事を約束し、小学校にはそのまま通った。幸い、あの日以来直接的な被害は無かった。朝登校すると、机がしめっている事もあったが、特に困る事ではなかったので気にしなかった。信也も、学校ではなるべく一緒にいるようにしてくれていたので、それも被害が無かった1つの要因だろう。本当に、彼にはどれだけ感謝してもし足りない。


 中学生になると、少しづつ父親の様子がおかしくなった。

 いつも何処か暗い表情をしていたり、家に帰ってくると、よく1人で酒を飲むようになった。母には止められていたが、母がいない日に、目を盗むようにして飲むようになった。

 

 そして、突然母から離婚することを告げられ、すぐに父親が出て行った。


 「...もうこんな時間か」


 少し感傷に浸りすぎたのか、既にいつも家を出る時間を過ぎてしまっていた。

 

 急いで食器を片付け、歯を磨き、通学用のバッグをもって玄関へと向かった。

 

 「行ってきます」


 少し暗い玄関でそう呟き、家を出た。

 

 今日も、何でもない1日が始まる。

 

 


 

 




 




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いつかきっと迎えに行くから! 白石 はく @DELTORA

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