赤いオッサン2

  屋根の上に腰を掛けた赤いオッサンは「Phewフュー……」と息を吐いた。

 最近のプレゼントは小さいモノが多くて助かる。今年は予定より早く配り終えそうだ。

 遠目に見える街の灯を眺めながら、赤いオッサンは先程の少年の事を思い出していた。

 昔は子供に気付かれるなんてことはなかったのに……少し老いたか。しかし、あの子のあの顔……目を丸くして驚いていたな。


ho ho hoホゥ ホゥ ホゥ


 靴下を破いてしまったのは……悪いことをした。しかし……あんな小さな靴下じゃあプレゼントは入らない……しょうがないな。

 束の間の休憩中も赤いオッサンは子供達の事を考えていた。

 さて、もうひと踏ん張りだ。

 プレゼントと笑顔を振りまいて、また来年だ。

 赤いオッサンは、満天の星が輝く夜空を見上げ、深呼吸をした。冬の澄んだ空気は、彼の頬を刺すように冷たいが、それでも心は温かかった。

 立ち上がり、背筋を伸ばす。大きく息を吸い込むと口元に指をやり大きな口笛を吹いた。


「Piiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiii!」


 どこからともなく現れた空を飛ぶトナカイ。赤いオッサンは、そのトナカイが引くソリに飛び乗る。

 戦闘機など目ではない。目的地までひとっ飛びだ。

 次の家は、少し離れた山中にあった。

 道案内をするのは、雪が積もった屋根の上を跳ね回る小さな動物たちだ。それを目印に赤いオッサンはソリから飛び降りた。音も立てずにフワリと着地する。

 家の周りは、静まりかえっていた。木々は冬枯れし、枝には雪が積もっている。赤いオッサンは、雪に足跡をつけないように、そっと家へと近づいた。

 窓から部屋の中をのぞく。

 様子がおかしい。この家にはクリスマス特有の幸せに包まれた空気が漂っていない。

 窓から子供部屋に入り、ベッドを確認する……

 いない。

 ドアが開いている。その隙間からガタンという乱暴な音が漏れ聞こえた。


 居間に行くと自分と同じように赤い服を着た男達が3人。刃物を手に、この家の家族であろう3人を囲んで大声で喚き立てている。その中の一人、父親であろう人物は頭から血を流してうずくまっている。その妻と息子は泣きながら父親にしがみついていた。

  

Hmmフム……」

 

 赤いオッサンの呟きに、赤い服の男達が振り返った。

 

「なんだありゃ!? おい! 知り合いか!?」

 

 父親は首を横に振る。

 

「警察じゃねえな。じゃあ、もしかして同業者か?」

 

「ハハハ! 同じ事を考えるヤツもいるもんだな。クリスマスにサンタのカッコしてりゃ、窓から入っても不審がられないもんな!」


「おいオッサン! 赤いオッサン! ここは先約済みだ。他をあたんな!」


 そう言った男達の中の一人が、赤いオッサンに歩み寄り、肩を押した。

 いや、押そうとした。

 ゴッっという鈍い音。仁王立ちする赤いオッサンに膝まづくようにして男はうずくまる。

 赤いオッサンは胸ぐらを掴み、男を無理矢理立たせる。


 ゴッ! ゴッ! ゴッ! ゴッ! ゴッ!


 赤いオッサンはひたすらに男を殴り続ける。床には男の血が飛び散る。その場にいる誰も……何も発することなく、その光景を見ていた。

 

 赤いオッサンは動かなくなった男から手を離した。ゴトリと横たわった男の顔面はひしゃげて、見るも無惨なモノになっている。

 母親の「ヒッ」という小さな悲鳴で残りの赤い服を着た男二人が我に返り叫ぶ。

 

「て、テメエ! 何しやがる! ぶっ殺されてえのか!」


 赤いオッサンは拳に着いた男の血を胸元でゴシゴシと拭っている。


「おい聞いてんのか!?」


 二人は持っていた刃物を取り出し構える。

 それを見た、赤いオッサンは笑った。

 

ho ho hoホゥ ホゥ ホゥ

 

「な、なにがおかしい!」

 

「Do you know why I'm wearing a red wears ?《私が何故赤い服を着てるか知ってるか?》」


「あ?」


「The blood…… isn't noticeable《血がな……目立たないのさ》」

 

英語じゃ分かんねえんだよー! 英検3級なめんなー! 


 刃物を手に、男達が襲いかかる。


「You are such a bad boy……《悪い子だ……》」

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